画面の映画的な質は極めて高い。編集や演出も実に見せる。どんどん物語が進んでいく。
とはいえ、物語はシンプルで、ドイツに対して徹底抗戦するか停戦交渉をするかの2択に迷って、結局戦うことで、当面の窮地を脱するまでが描かれているだけで、邦題の「ヒトラーから世界を救った」は全く大風呂敷もいいところだ。
対立する論理は緊密だ。現実的には交渉する方が良いとも思える。それが何か陰謀論のように描かれているわけではなく、現実的な判断として十分な説得力をもつように描かれている。
対するチャーチルが徹底抗戦を訴えるのも、徒な玉砕主義ではなく、今後の展開を考えれば、ここで譲歩するのは避けるべきだという判断であり、これは拮抗する。
ドラマを作る葛藤も、危機を逆転しての攻勢も、物語としては良くできている。面白かった。
だがどうも腑に落ちない思いも残る。結局チャーチルが国民や議会を説得するのは演説なのだ。その演説は、ほとんどヒトラーがドイツを狂気に導いた演説と変わらないではないかと思えてしまうのだった。結果や語られる論理を十分に精査して、両者の演説は違うのだと言うのは難しい。どちらも要するに他人の感情に訴えて煽っているのだ。
西洋的な演説の功罪について感じ入る映画だった。