2017年1月20日金曜日

『ドント・ブリーズ』 -満腹のホラー映画

 前回のIMAXで映画館づいて、久しぶりに帰省した娘と、翌日が休日になるという前回の娘と、レイトショーに出かけた。
 何が観たいということではなく(観たいというなら『この世界の片隅に』だが、ほど近いシネコンでは上映が終わってしまっていた)、現在上映中の映画を調べてみたところ、なんだかわからないホラーくらいしか、観てもいいと思える映画がなかった。もちろんホラーは歓迎ではある。念のため、と評判を確認してみると、宇多丸さんがずいぶんな高評価らしいという情報があったので、それなら、と。

 さて、ホラーという分類ではあるが、設定をきくかぎりオカルトではないらしい。それならスリラーかサスペンスではないかとも思ったが、ジェイソンだって、『スクリーム』シリーズだって、まあホラーということにはなっている。
 始まってもその情報のまま話が進んでいくようで、これでほんとに面白くなるのか心配になる。もちろん語り口はそつなく、映画として駄目な感じはしないが、いかんせん、舞台の広がりがなく人数も少ない。一軒家の中で、「怪物」に対峙するのは3人だけ。一人ずつ死んでいくには人数が少なすぎる。これで保つのか?
 いやはや、杞憂であった。最初の段階で1人が死ぬのはお約束だ。それが危機の度合いを設定するのだから。となれば残りは2人が死ぬか生き延びるかがサスペンスを支えるしかない。そしてそのサスペンスを、2人は存分に支えきったのだった。二階から地下室まで使った家の中を縦横無尽に舞台として、2人が逃げまくる。

 この映画におけるサスペンスを生む仕掛けは、いうまでもなく、「盲目の軍人」という設定である。たとえば相手が大怪獣であったり悪魔だったりすると、こうした意味でのサスペンスは生まれない。太刀打ちしようがないからだ。大怪獣相手にはただただその災害が及ばないことを願うしかなく、悪魔には恐怖は感じてもサスペンスは感じない。
 それに対してゾンビは、演出が適切ならば充分なサスペンスを生む設定である。こちらの工夫で対処が可能であり、方策を誤れば死に至る存在だからである(だからこの間の『人造人間13号』のようにゾンビの数が少なかったり、「走るゾンビ」だったりすると、よほど設定や演出を工夫しないと、サスペンスは生じさせにくい)。
 そこへいくと「盲目の軍人」という設定は、ゾンビのような「丁度良さ」をもっている。単体での戦闘力が敵わないとしても、発見されないように振る舞う可能性を残している。だから精一杯、頭も勇気も振り絞って、なおかつ幸運を祈って身悶えするように観てしまうのだ。
 途中そのアドバンテージを帳消しにする場面展開があって、そこではそれこそサスペンスの度合いもぎりぎりまで引き上げられる。ここは映画館の暗闇の中で観るしかない。明るいリビングで観てはだめである。昼間のリビングなどもってのほかである。
 映画は、1時間半にいたらぬサイズの中に、とりわけ後半に怒濤の展開を、これでもかという調子で詰め込んで、満腹のうちに終わった。その完成度の高い脚本と緻密な演出に脱帽である。

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