アカデミー賞作品賞という情報だけで、とりあえず見てみようと。
主人公が時折見る妄想シーンには辟易したが、それはまあ物語上必要だとして、それ以外には間然するところのない、つくづくうまい映画だった。家族崩壊、メンタルヘルス、LGBT、退役軍人、ストーキング等々、病んだアメリカの病理が次々と散りばめられつつ、それがアメリカン・ドリーム幻想とマッチョイズムの裏返しであることもあからさまに描き出す。
語り口がうますぎるのは監督の演出によるのかケビン・スペイシーが良い役者だということか、とにかく、場面場面のやりとりに、どんなニュアンスを出したいのかがいちいち的確に表現されている。心からの快哉と苦笑いの違いも、それが的確であることによって、観ていて気持ちが良い。ここでこういう感情の微妙な揺れを表現したいのだろうという丁寧な作り手の意図と、それを現前させる的確な技術。
最初から主人公が死ぬと予告されていて、それが娘の教唆によるボーイフレンドの手によるものでも、妻の自棄によるものではないのが、不思議に救いに感じられるくらいに、全体として病んでいて、それを映画全体が寛容に受け止めているような不思議な暖かさが感じられる印象の映画だった。
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