2018年12月16日日曜日

『シン・ゴジラ』-シミュレーション・ドラマとしての怪獣映画

 『君の名は』と『この世界の片隅に』を劇場で観た年に『シン・ゴジラ』は観なかった。アニメと特撮というジャンルに対する応援の気持ちの差だった。「ウルトラマン」と「仮面ライダー」、それぞれをシリーズとして追った特撮世代ではあるのだが、たぶん、先に特撮を卒業して、物心ついた頃から観ていたという意味では同じつきあいのアニメは結局卒業せずに追ってきて、その中で多くの作品に触れてきたジャンルとしての思い入れの差が、この選択に表れた。
 といって、劇場版エヴァンゲリオンに対する落胆もあって、庵野秀明だからといってレンタル店に並んだらすぐ、というような思い入れもなくてテレビ放送を待っていたのだが、1回目を見逃してこれが2回目。
 期待していたのは、怪獣が出現するという事態に対する日本の反応のリアルさだった。世間的にもそれが評判だったような印象でもあるし。
 観てみると、官邸の描写はむしろ戯画的だな、と思った。大臣たちが、いかにもそれぞれの担当省の利害の立場から発言する。しかし実際の会議の中ではそんなことはないはずだ。緊急事態に対して、もっと個人の性向が表れるだろう。
 役者陣の演技も総じて大根だ。そういう演出なんだろうが、まあ世界設定でもある。とりわけ主人公の二人、長谷川博巳はもともと大根演技が持ち味だし、石原さとみは人物設定に無理がありすぎて大根にならざるをえない。
 ということでリアルな人間ドラマよりも、シミュレーション・ドラマとしての展開の面白さというべきなんだろうな、これは。一方で怪獣の出現が人々の日常にどう影響するかをリアルに描く怪獣映画などというものを観てみたいと思ったり。
 怪獣映画としては、ヤシオリ作戦における電車の使い方とか、ビルを倒壊させてゴジラを固定するとかいう「創意工夫」と、それが実現するときの喝采を送りたくなるような高揚感が素晴らしかった。
 それから、第4形態のおなじみのゴジラになって、おなじみの熱線で街をなぎはらうシーンで、これまでの怪獣映画で感じたことのない「えらいことになったな」という戦慄を感じたのは、それだけ実在の街にゴジラがいるというリアルな感触が描かれていたからだろう。
 これを実現しているだけでもやはり成功作というべきなのだ。

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