2016年11月20日日曜日

『日本のいちばん長い日』 -重厚な画面に歴史の断片が現前する

 『わが母の記』も重厚な作りだったが、これも、画面全体がとにかく重厚だ。これくらいに作ってくれると、とりあえず歴史の勉強にでも、と観る気になる。太平洋戦争の終結を宣する詔勅がどのように作られ、どのように告げられたのか、そこにかかわる人々がどのように思い、行動したのか。ドラマとしてもドキュメンタリーとしても見応えがあるに違いない。
 さて、実際のところどうか。
 充分と言っていい程度に満足した。
 会議での決定にいたるプロセス、そこに持ってくる各大臣・閣僚の背後のしがらみからくる力関係が、もちろん史実・事実だとは言わないが、いかにもありそうに描けている。そういうことはきっとあったろうと想像される。それぞれがどこにこだわり、どこで面子を保ち、どんなに信念を貫こうとし、何を守り、何を諦めたか。
 もちろんそれは会議の決定だけでなく、その会議に影響を及ぼす周囲の状況であり、会議の決定によって影響される人々の思いでもある。
 こうした混乱と人々の努力の果てに、少なくとも現在の形での今の日本があるのだと思うと、神妙な気持ちにもなる。

 さてこうした評価とは別に、ものすごく感動的だったというわけではむろんない。よくできていた、というようなひどく不遜な言い方で肯定しているだけだ。そして、面白さはたぶん原作の面白さであり、事実の面白さでもあるのだろう。
 映画としては役所広司の阿南陸相の人物造形は卓抜していたし、松坂桃李の畑中少佐も(「ゆとりですがなにか」で俄然、好感度の増したとはいえ)、かつての毛嫌いからすると、熱演が嫌みでもなくうまいと感じられた。
 ただ話題の本木の昭和天皇は、感嘆するほどではなかった。ああいうふうに演ずれば、ああいう感じにはなるだろ、という感想しかなかった。本物みたい、まるで本物、とかいう評があるようだが、本物の裕仁天皇を、我々の誰が知るというのか。ついでにいえば、確かに終戦時の昭和天皇は、今の本木よりも若かったのだが、我々のイメージの昭和天皇といえばすっかりお爺さんのイメージであり、やはり本木では若すぎる。
 もちろん、気品ありげに見える本木の演技は、それなりに高貴なお方に見えて悪くなかった。ただ、特別な演技には見えなかったというだけだ。

 ネットではえらく評価の高い岡本喜八監督作はまだ観ていない。こちらもいずれは観たいという期待が高まった。

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