2020年5月21日木曜日

『息もできない』-全編に満ちる切迫感

 評価の高い作品であることは知っていたので、いずれとは思っていて、この際、韓国映画特集ということで。

 後から調べると、原題は作中で主人公が頻繁に口にする汚い言葉なのだというが、英語題の『Breathless』から翻訳した『息もできない』は、珍しく見事な邦題だ。むろん「息苦しい」ではなく、「息ができない」でもなく。
 全編に「息もできない」切迫感が満ちている。
 粗暴に振る舞うことしかできない主人公の言動は確かに愚かしく、見るからに苛立たしいのだが、だからこその切迫感である。
 もっとこうすればいいのに、とか、こうしろよ、とかいう期待を裏切って愚かな言動をとり続け、危ない危ないと思っていると結局愚かで悲劇的な最後を遂げる。
 観ていくうちに、最初は不快だったとしても、だんだんと、それなりに幸せになってもらいたいと思い始めるからこその不安だ。言動の変化も見えてきて、事態の好転が期待されるからこその悲劇だ。

 これも後から調べると、主人公の「愚かな男」ヤン・イクチュンが監督でもあり、脚本も書いているのだった(制作も編集もというから手作り感満載)。
 インタビューでは、やむにやまれぬ思いから脚本を書き、ほとんど自主映画的に作って、絶賛にも関わらず、今後映画を作る気持ちは当面ないのだと。
 この、映画の成立過程もなんだか劇中の空気と重なる。

 ヒロインのキム・コッピは、最初の登場シーンでは見事に可愛くないのだが、最後の方では別人のように可愛くなっていて、これも見事。

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