2025年2月15日土曜日

『アイ・イン・ザ・スカイ 世界一安全な戦場』-それぞれの論理

 ヘレン・ミレン主演ということで関心に入ってきたのだが、観てみると、彼女は当然のことながら登場人物それぞれの持つ存在感が緊密に描かれた脚本と演出(と演技)で、実に見事な物語を作り上げている。

 テロリストへの攻撃を遠隔操作によって行う作戦を英国と米国とアフリカ某国が協力して立てる。政治家、軍上層部、ドローンやミサイルを操作するオペレーター、現場近くに待機する兵士、そしてテロリストのアジトの周辺の住民。関係者が丁寧に描かれる。それぞれの立場が体現する論理がリアルにぶつかる。一部で政治家が不誠実な態度をとるが、それもまたこの現場にのみ生きているわけではない(別の現場を掛け持ちしている)立場ではやむをえないというリアリティをもっている。

 ドラマを生む対立は、基本的には「トロッコ問題」だ。テロリストをアジトで発見し、攻撃して殺してしまえばその後のテロで死ぬ人が何十人も救われる(かもしれない)。だが、今そのアジトの周辺にいる少数の人間が死ぬ(かもしれない)。その「犠牲」を、いたいけな少女に代表させるところで、現場の判断が揺れるのもやむをえないと思わせる。

 作戦の遂行・成功、政治的な宣伝効果、人道的配慮、各国のパワー・バランス…、様々な要素がそれぞれ説得力をもってぶつかるドラマは、横山秀夫作品にも通じる。

 邦題の「世界一安全な戦場」というのは、遠隔操作による攻撃を指すが、それを非難する政治家に対し、指揮官が、自分は何度も現場を経験したと返す。論理は拮抗する。

 遠隔攻撃を扱った物語といえば『マージナル・オペレーション』だが(マンガでのみ読んでいる)、あれは主人公が、その「安全」な立場でいることから、現場の兵士に本気で関わろうとした物語だった。

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