2026年7月11日土曜日

『黒牢城』-小説には勝てない

 直木賞だけでなく主要ミステリー賞も総なめにした米澤穂信作品を黒沢清が映画化する。どう期待したものやらと思いながら観始めると、画面はさすがの重厚感。

 ところが最初の謎がほどなくあっさり解ける。どういうわけかと思っていると、そういえば短編集だと聞いた気もする。次の謎も、やはり途中で解決してしまう。やはりそうなのだ。

 とはいえ通して仕掛けられた大きな謎はあるから、それが最後に解けるという構成は「medium 霊媒探偵城塚翡翠」だ。が、あれほどのドンデン返しはなかった。なんとなく重厚な時代劇と、それほどでもないミステリー、という感じだったが、あれほど高評価の原作がこんなもんなのかと、原作も読んでみた。

 読んでみると、意外なほど原作通りに映画化している。落としているエピソードはない。場面も台詞も、映画で観た覚えがある。そして確かに短編としては章ごとに謎が解けて一区切りしていく。

 だが終盤、全体に関わる動機が明らかになる長い語りが圧倒的だとわかる。なるほど、映画でも語られなかったはずはないのに、その印象が驚くほど薄いのに比べて、小説ではこれほど胸を衝く力をもっているのだった。これはミステリーとしても、直木賞が対象にしているような一般的大衆小説としても、最高度に力のある小説だという評価が納得される。最も、動機で感動させるミステリーというのは珍しいだろうけれど。

 そういえば籠城をめぐって荒木村重がどう考えているかというような細かい心理も、やはり映画では描けないから(まさか心中語を語らせるわけにもいくまいから)、そうなると、途中の面白みも、やはり小説の方が豊かなのだった。

 メディアの差を超えることがないまま、しかもよりによって感動的な原作の最後のエピソードがすっかり省略されているのはいったいどういうわけか。

 やはり黒沢清。


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