2026年9月23日水曜日

『バックルームス』-結局トラウマ

  予告編から期待大だったが世間的にも大いにヒットしていて、これは体験として劇場で見てもいいかと思った。

 終始怖かった。音のせいでもある。通奏低音が長く鳴り続けている。キャッチコピーの「脳を侵食する」って、映画のコンセプトによってではなく、物理的・生理的にかい、と突っ込みたくなる。

 ジャンプスケアもある。だから気が抜けない。空間がテーマだから、いったんバックルームに入ると、いつ何が起こるか、出てくるかと緊張が抜けない。あそこの陰が、背後が、怖い。ホラーとしてはこれは常套手段だ。

 さて、だが怖さを求めているのではない。リミナルスペースという奇妙なコンセプトに「脳を侵食」してほしいと思っていたのだった。これに惹かれるのは、ディストピアものの、人のいなくなった街とか、廃墟とかに惹かれるあの感じに似ているようにも思える。

 だがこの期待は十分には満たされなかった。空間のデザインが不自然だという序盤の指摘は期待通りだったが、それが結局は記憶を不完全にコピーしたせいだとか、説明されてしまう。謎であるべきリミナルスペースに、それは人のイド(潜在意識)だという説明がついてしまう。

 だから恐怖も結局は、正体みたりトラウマなりといういつものパターンなのだった。『IT』はそういうパターンだとわかっているから心構えもできているが、これもそうかと知らされるのはいささかがっかり。その末に、『IT』で最もがっかりした、老婆の肢体が細長く伸びたクリーチャーが、こちらでも出てくるのだった。『スマイル』でもそうだった。細長い手足を持った3メートルくらいあるクリーチャーといえば「トールマン」だが、何か、アメリカ人の共通の潜在意識に根ざした恐怖の対象なんだろうか。ともあれ、これが物理的に危害を加えてくるというのがクライマックスだったのはがっかり。といって「悪魔」が出てきて、そんなの人間にはどうにもできないといった凶悪な呪いで責められても戦いようがないから、それもまた興醒めではあるが。

 結局ホラーにちょうど良いのは走らないゾンビなのか。

 いや、ホラーと言っても、本作に脅威からの逃走を期待していたわけではないのだ。もっとリミナルスペースは不条理で圧倒的な不思議であってほしかった。

 そこでの試行錯誤が描かれるという意味では『CUBE』や『プラットホーム』の方が豊富なアイデアが詰め込まれていたと思う。

 それから、ラストがハッピーエンドにならないホラーも気に入らない。『スマイル』も『ロングレックス』も。とりわけ敵がトラウマなら、克服の物語を描けばいいではないか。そこは安心なところに落として、でもリミナルスペースの不気味は残る、という終わりでいいのに。

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