連載開始が1994年というからもう四半世紀近くなるのだ。連載終了後にしてももう10年以上前になる。
お祭りのようだった世の中が
ゆっくりとおちついてきた
あのころのこと
のちに夕凪の時代と呼ばれる
てろてろの時間
つかの間のひとときをご案内しましょう
夜が来る前に
まだあったかいコンクリートにすわって
地球温暖化によって海面があがり、海岸線は徐々に日本列島を浸食して、現在の横浜は水没していたりする(連載開始時、やがてはそうなると信じられていたのだ)。未来の神奈川県を舞台にした、ロボットの「アルファ」が営むカフェに集う人々の物語。
物語は実に「てろてろ」としている。ほとんど連載の一回ごとにエピソードは分かれているから、面白いと思って最初の方を買っていたが、先を読み進めることを急がされずに、そのうち単行本も古本屋の100円コーナーで見つければいいやと思って「てろてろ」と放置していた。
十数年をかけて最近最終刊が見つかって全巻揃いとなったところで、頭から通読してみた。
デビュー作だから、最初の方とは絵柄がずいぶん違っていたなあ、とか、かろうじて覚えているエピソードがあったりもする。どれもちょっと良い感じだが、強力に物語を推し進める力はない。
だが、12年間の連載を、さらに連載から10年以上の時が経って読むというこのシチュエーションがなかなか良かったりする。
「あのころ」と語られるのは、未来の物語のさらに先までアルファが生きていて、その時点から語っていることを示している。そこでは登場人物の「人間」たちはもう誰もいないに違いない。今回通読してみると、物語中でも、おそらく20年以上の時間が経っているのだ。その間、子どもは大人になり、海岸の浸食は続く。
だがその年月を振り返って一望し、さらに続く人類の黄昏を愛おしむような視線が、こんなふうにこの物語を読むのにふさわしいような気もする。なんだが切ないのと暖かいのとがまざったまま最後まで、ようやく読み終えたのだった。