2020年1月31日金曜日

『十二人の死にたい子供たち』-様々な可能性が開花しない

 一種のSSSで、ミステリーでもあるというので、原作から気になっていたのだが、SSSというのはとりわけ映画で観たいジャンルでもある。
 ということで期待値は高く、最初のうちは画面の暗さも悪くない、と思った。『インシテミル』の安っぽさとは明らかに違う。『人狼ゲーム』シリーズの暗さと表裏一体の明るさとも違う、陰影のある暗さ。
 そして始まってみれば、クローズド・サークルのミステリーであるばかりか、「12人」という数が示すとおり、「陪審員物」でさえあるのだった。最初一人だった反対票が、最終的に全員の票に変わる、という。
 途中の対立も、最後に舞台から出て行くときの解放感も、『十二人の怒れる男』が意識されていることは明らかだ。

 だが残念ながら、脚本の弱さがいかんともしがたい。それぞれの自殺の動機に説得力もないし、それが覆る論理も感情も、まるで不十分なのだった。脚本が不十分なまま制作が進行するところも残念だが、それを踏まえて、そここそを描かなければならないと監督が自覚すれば、それなりに工夫もできそうなものだが。
 狙いとしては、全員が自殺の決意を翻すにいたる論戦というのは、相当に面白そうな題材だ。そして新田真剣佑の演技はそれを感動的に見せることもできるレベルを体現していたのに。
 エピソードを積み上げる時間がないということか? だが『十二人の怒れる男』はそれをやっているではないか。歴史的名作を比較に出すことは無理か? だがそれを目指さずにどんな映画を作りたいのか。
 ミステリーとしては、いくつかの伏線回収に満足したものの、もうちょっと謎として考えさせないと、単に伏せられた事実が後で説明されるだけという感じがしてしまう。それを伏線というのなら、ミステリーはいくらでも作れることになってしまう。ここも残念。
 ホラー要素はまあないとはいえ、サスペンスすら最初から求めていなかったのか? せっかくのクローズド・サークル物だというのに。
 そしてこれだけのキャストを揃えているからこそ、青春群像劇として見せることのできなかった脚本と演出のドラマ作りの弱さが露わになってしまっている。

 様々な可能性を持っていながら、そのどれもが秘められたまま開花しない、(期待が大きかっただけに)本当に残念な作品だった。

2020年1月25日土曜日

『ラストサマー』-薄味

 絶対観た記憶はあるんだが、どう決着するのかまるで思い出せない。連続で1と2が放送されるというので、軽く。
 「フィッシャーマン」のシルエットは確かに観た覚えがあったが、街中でのサスペンスフルな追いかけっこがもっとあったような記憶があったのは、何かと混同していたか(例えば『スクリーム』とか)。全体には薄味だった。
 何より、フィッシャーマンの正体に神秘性がなく、単なる暴力的な親父かあ、というのががっかり。
 『スクリーム』の脚本家の作ということだが、同じカテゴリーで、どうみても『スクリーム』の方がよくできている。

2020年1月20日月曜日

『スマホを落としただけなのに』-成田凌の快演だけは

 軽く観ることができるんで、録画してすぐ。
 たぶん面白い話なのだろうけれど、監督があの『インシテミル』が惨憺たる出来だった中田秀夫だし、と期待はしていなかった。やはりこれも惨憺たる出来だったという意味で、期待通りだった。ツッコミどころが満載で、話題作をこの程度にしか作れないという邦画の現状は本当に残念なことだ。
 ただ、予備知識がなかったので、成田凌の快演にはびっくりした。印象の激変が、見事に演じられている。ここだけが見所だった。
 ネットでも専らそこだけが評価されている。

2020年1月19日日曜日

『幕が上がる』-悪くない青春映画

 とあるサイトで本作が推薦されていたのを読んだのと、ちょうど演劇経験者の娘が帰省していたので、急遽レンタルして。
 ももクロに対する興味は皆無だが、高校演劇についての興味はいくらかある、という感じだが、ともあれ、皆で何かを作り上げる系の話は、よくできていれば面白くならないはずはない。監督が本広克行なのが不安だが。
 結果、悪くない映画だった。
 平田オリザのワークショップの様子が収録されているというメイキングも併せて借りてきた。メイキングを見るとえらく面白そうなのに、できあがった作品はそうでもない、というケースも多いが、本作はその落胆もなかった。それでも、その場面を撮ることにどれほどの苦労と手間と想いがこめられているかを知ることのできるメイキングはやはり感動的なのだが。
 なるほど、ももクロが初の映画出演ということで、そこでの映画作り経験と劇中の演劇作りがシンクロするわけだ。
 主演の百田夏菜子は、メイキングを見ると頭が悪そうなのに、初体験の演技に対してはえらく勘が良さそうで、実際に映画の中では、ちゃんと感動的な台詞を感動的に見せる。後からネットで見るとそういうキャラクターとして一般的にも見られているのか。

 ところで、始まってすぐに、背景となる山並みに見覚えがあるぞと思ったら、高校名が出てくるところで、やっぱり、となった。我らが故郷が舞台なのだった。どこの場面かわからなかったが、我が母校もロケに使われているらしいことが、エンドロールで確かめられた。
 知っていて観始めたんじゃないのか、とは同郷の家人の弁だが、いや、知らなかった。

2020年1月6日月曜日

『スノーピアサー』-全体に「噛み合わない」

 ということで続けてポン・ジュノ。
 だがアメリカ、フランス合作ということで、韓国映画らしからぬSF。始まってしばらく、おなじみのソン・ガンホが出てくるまでは欧米人しか出てこないので、『殺人の追憶』とは随分感触が違う。ティルダ・スウィントンとかエド・ハリスとかいうハリウッド大物が出てくる。
 こちらのソン・ガンホは『グエムル』や『殺人の追憶』のさえない中年男という役どころと違って、長い蓬髪に髭をたくわえ、「なにやらひとくせありそうな」技術屋で、立ち回りもしてみせる。
 だがこの、もってまわったキャラクターを描くために、ソン・ガンホに限らず、登場人物達の言動を不自然に描きすぎている。例えば、普通に返事をしない、などという言動で「なにやらありげ」を表現しようとしているところあたりが、もはやあざとく感じられる。
 そもそも人類滅亡後の特急列車の中の階級闘争を描くというこの映画の設定が狂っているから、こうした描き方はしょうがないのだろうか。
 この設定が面白いのだと考えるのは、観念的にはわかる。だが結局、スケールの小ささばかりが目立つ。もちろんそれでも濃密な人間ドラマを描くことはできるだろうが、どうも全体に「噛み合わない」感触ばかりが残った。

2020年1月2日木曜日

『殺人の追憶』-唸るほど面白い

 新作の『パラサイト』がカンヌ映画祭のパルム・ドール受賞というニュースが流れているせいで、『グエムル』に対する高評価で前から気になっているこの映画を、次にレンタル屋に行ったら借りてこようかとさえ思っていたところ、テレビ放送したので。
 面白かった。唸るほど面白い。映画的な見せ方を実に心得ている。例えばこんなカット。
 葦原を軽い俯瞰で捉える。そこに画面上方から葦を割って手前に歩く刑事の姿が画面に入ってくる。その前からの話の流れで証拠を探しているのだとわかる。そのまま画角が広くなると、その刑事の後ろには数十人の警官が列になって、同じように葦原を割って進んでいる。これだけのカットが実に映画的なのだ。
 警察が被害者の遺体を探しているという「意味」を伝えるだけではなく、観客が見たものを次々と解釈する心理を誘導して、それをコントロールしている。
 被害者が赤い服を着ているという情報が伝えられ、登場人物の一人が赤に近い服を着て登場すると、これはそういうことか、と観客は予想してその不安を抱きながら続きを観る。その人物に犯人の魔の手が迫る。そのうえでこの予想を裏切りさえする。
 連続殺人事件を追う刑事達の話ということでは、実話がベースでどちらも未解決事件を扱ったデヴィット・フィンチャーの『ゾディアック』を思い出させたが、並べても遜色ない面白さ。どちらも監督の力量が高いのが画面のそこらじゅうから滲み出ている。

『WASABI』-際物

 リュック・ベッソンなのだから、それなりに手堅く面白いものを作るんだろうと思って観始めると、妙にコメディタッチでチープだ。広末涼子が出てきてからは、当時の広末の魅力で見られるようになったのだが、お話としては最後までチープ。日本の街中で銃撃戦は無理だな。そうした事態のシリアスさがまるで描かれないアンバランスさが、物語全体をしらけさせてしまう。
 日本人には広末人気をあてこんだのか? フランス向けには「レオン」の二番煎じとしてヒットが期待されたのか? どういう需要があったのかわからないが、まあキワモノなんだろう。
 ジャン・レノと広末がデパートで買い物をする件などは、コメディとしては悪くないテンポだったのだが。広末は、演技も堂々として、ジャン・レノの存在感に見劣りしなかった。