2020年12月31日木曜日

2020のアニメ

   1クール全話通して見たアニメについて、一言ずつ書き残しておく。

 2020は年間通してということになってしまったが、来年からは1クールずつ分けていこう。


1クール(1-3)

「ダーウィンズ・ゲーム」

 最初は面白そうなデス・ゲームものだと期待させたが、次第にトンデモな感じが強くなっていって、なんとか最終話まで。


「映像研には手を出すな」

 湯浅政明作品ということで、アニメーションは安心。となれば原作の良さで見られる。物語の中の「現実」と、アニメ世界とが地続きで入れ替わる描写は素晴らしかった。


「pet」

 最初のうち、どうにも話が把握できずに何度か見直した。物語の枠組みがわかってきても、キャラクターがどうも安定して把握できない。どういう人物像なのか揺れる。これはこれで原作がそうなのかもしれない。

 心の中に、大事な場所がある、という設定に、最終話で意外なほど感動させられたのだった。


「ドロヘドロ」

 異様な世界観を最後まで堅実な作画で見事に見せきった。が、1クールではまるで物語が完結せず、どうにも消化不良。


「ケンガンアシュラ」

 3CGアニメは決定的に作画が乱れることがないから、2クールが安定して見られた。毎回楽しくて、録画してすぐに見ていた。


「空挺ドラゴンズ」

 最初のビジュアルはなんともはやジブリっぽいぞと思ったが、物語はすぐにそうでもないことがわかった。空が舞台であることの緊張感がどうも足りないように思えるところが不満ではあったが、世界観は面白かった。


「ハイキュー!! Go to the Top」

 監督が替わって作画レベルが落ちたのでがっかりしたが、何話かはやはり確実に原作の力を感じてしまった。すごい物語だ。スポーツやら高校の部活やらについての確かな考察に支えられて、躍動感溢れる物語が展開する。


「ID:invaded」

 ここ数年で確実に特記すべき、オリジナルアニメ作品だった。全話ダビングしてからも、子供と一緒に通しで観たりして、3回は通しで観ている。

 毎回のイメージの鮮烈さもすごかったが、深まる謎にも引っ張られたし、キャラクターも魅力的だし、すこぶる感動的な回もあったり。津田健次郎は安定の好演ではあるが、この作品こそ最も感動的な演技を見せた。もちろん物語がそれを支えたのではあるが。

 舞城王太郎は「阿修羅ガール」と『龍の歯医者』が低評価なのだが、これは一気に評価を高めて、さてどうしたものか。


2クール(4-6)

「ひぐらしのなく頃に」(旧作)

 新シリーズがアニメ化されるらしく、旧シリーズの再放送をこの機会に。それほど古いわけではないのに大昔のアニメのような画像の粗さはどうしたことか。原作もまあ、部分部分が面白いわけではないので、全体に早送りで。


「無限の住人」

 これを期に原作を読み直して感動を新たにし、毎回アニメを観ては沙村広明の力を思い知った。第1回のレベルを維持できればそれなりに価値あるアニメ化ともなったのだろうが、2クールもかけて物語全部の流れを追ったものの密度がひたすら薄くなってしまったのは残念。


「波よ聞いてくれ」

 アニメは酷い。原作の方が面白いに決まっているが、コナレの声が楽しいので見続けた。杉山里穂、素晴らしい。


「グレイプニル」

 最初はどこへ向かってしまうのかと期待したし、アニメーションもうまかったのだが、どんどん作画レベルが落ちて、結局話も完結しない。続シリーズ前提か。


「ULTRAMAN」

 『攻殻機動隊SAC』の神山健治に対する義理から1クール見続けたが、ちょっと信じ難いほど頭の悪い脚本と演出で、毎回不愉快を我慢して見続けた。いったいどうしたというのだ。このあまりの酷さは。殺陣だけは観られるできだったので、それだけを作るつもりだったのか。だがだからといって人間ドラマが、ひたすら不快なほど不合理な展開と演出でいいというのはどういう了見か。


3クール(7-9)

「バトル・オブ・ハイスクール」

 韓国が舞台のアニメが、そのまま日本に舞台を移植せずに放送されるのが意外ではあった。初回のアクションシーンの作画には目を瞠るものがあったが、あとは尻つぼみのまま。


「グレート・プリテンダー」

 古沢良太の評価は回復せず。どのエピソードにも感心しなかった。が、あえて画面全体を極彩色で色分けするセンスだけは毎回驚いた。ああいうやり方はそう何度も通用しないのかもしれないが、それをやってしまったこのアニメについては評価していい。


『富豪刑事 Balance:UNLIMITED』

 CloverWorksは「ダーリン・イン・ザ・フランキス」も「青ブタ」も悪くない仕事をしていて、本作もアニメ的には高水準。だがストーリーが結局それほど面白くならなかったし、主役の二人もそれほど魅力的でもなく、期待外れ。


「AICO」

 設定も展開もしっかりしたSFで感心したし、作画も最後まで乱れなかった。劇的に面白かったとは言えないが消すには忍びないと思えた。


「デカダンス」

 「AICO」とともに、設定も作画も質の高いオリジナルSFアニメだったのだが、「質が高い」ということが必ずしも「面白い」には結びつかない残念な作品だった。


「ヒーロー・マスク」

 Netflix作品であることが、番組のそこここで強調されるから、これは最初から海外での配信を意図しているのだろうと思わせる、洋画っぽい描写がつづいて、しばしば感心した。舞台も登場人物もそうだし、画面上に出てくる英語を訳して字幕表示したりもしない。

 しかし2クール分の物語を全部追って、結局それほど面白くはなかった。SF設定が結局説明されずに、とにかく「そういうもの」として語られて終わってしまったし、主人公が、これも説明なく不死身すぎる。これではサスペンスも興ざめだ。

 舞台設定や作画などは力の入った作品だったのに、最後のところで物語づくりが浅かった。


「やはり俺の青春ラブコメはまちがっている 完」

 最初はコメディだったのが、前シーズンから旧に作画のレベルが上がるとともに話がシリアスになっていって、観るべきアニメの一つになった。さて完結する今シーズンだが、毎回を楽しみに観るというようにはいかず、全話録ってから観たのは次の年明けとなったが、その分、通して見たからこそのめり込むこともできた。

 よく考えられた思考を、美しい言葉遣いで語るのに毎度感心した。それぞれが大切に思うものをどうやって守ろうとするかを考えた挙げ句、なんとかそれぞれに決断していく。なんと卑近な問題にうじうじと、とは思うものの、例えば『エヴァ』が、あまりのスケールの大きさに対して、あまりのくだらない自己憐憫にうじうじしている、その落差に呆れてしまうのにくらべて、こちらは心の動きにリアリティがあり、かつ節度があるので、実に切実に迫ってきて、登場人物達が愛おしいと思えた。


4(10-12)

「無能なナナ」

 あまりにひどい作画に舐めていたが、3話くらいから、ミステリーとしての質の高さに舌を巻くようになって最後まで。

 最近「カイジ」以来、こういう論理ゲームは質の高い物語が増えてきた。「デス・ノート」「ライアー・ゲーム」「賭けグルイ」…。ただ、まるで途中のまま終わったので、これは2期に期待。


「ひぐらしのなく頃に」

 今なぜ新作アニメ化。もともとのゲームシナリオと同じような、微妙に違うような。制作側は「完全新作」を謳っているが、同工異曲の観が強い。そしてもちろん旧作よりは絵が綺麗になっているが、そのぶんおどろおどろしさがなくなったともいえ、密度が薄いのは否みがたい。


「禍つヴァールハイト」

 ゲーム原作の異世界ものは基本的にはパスなんだが、妙にうまいような、ちょっと特徴のある画は外国のスタジオに発注しているせいか。初回以降はたちまち作画の質が落ちたが、物語といい演出といい、もうダメかと思うと意外といい部分があったりして結局最後まで。


「神様になった日」

 2話の「ロッキー」パロディがやたらと面白かったりもしたのだが、全体にはあまりに中2で浅はか。でも最終話のベタベタな展開に感動させられたりもする。だがそれで許せてしまうアニメファンはあまりに考えが浅い。


「呪術廻戦」

 最初の3話くらいまですごい作画だったのだが、その後、いくらか落ちた。が、アクションシーンはいつもすばらしい。2クールあるので年をまたいで感想を。


「ハイキュー!! Go to the Top」

 1クールの放送では、監督が替わって作画のレベルが落ちたのが残念だったが、このクールは録りためたのを観始めたらとまらなくなって、3時間あまり夜中まで見続けてしまい、やはり原作の力を思い知った。アニメーションとしても、時々力の抜けるところはあるものの、肝心なところはちゃんと観られるレベルで描いていて、そうなれば物語の力で感動させる。


「ゴールデン・カムイ」

 原作も2期も読み逃し、見逃していたらもうすっかり話がわからないし、アニメとしてはまるで観るところがないのだが、毎回楽しかったのは原作のわけのわからない力による。録ってから観るまでに実にハードルが低い。


「赤毛のアン」「未来少年コナン」「デュラララ!!」「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」は、この際に保存しておこうと。DVDよりもハイビジョン放送を録画する方が画質がいいので。どれも素晴らしかった。ジブリの原点2作は当たり前だが、京アニの仕事ぶりも。大森貴弘は「デュラララ!!」が最高の仕事ではなかろうか。

「STEINS;GATE」も録り続けているが観てはいない。


『アーヤと魔女』-裏返しの期待を確認する

  もちろん宮崎吾朗に期待はしていない。それどころかまるでそれを確認するためだけに見ているようなことになっている。そしてやはりそのとおり確認されてしまうのだった。

 こういう設定で、こういう物語で、父親ならばきっとそこら中が面白いと思える描写をするのだろうといちいち思わされる。

 比較が可能な、どこかで見た物語の感触だからこそ、だ。「魔女」ときて「宅急便」や「ハウル」を連想しないはずはない。そして、あれらは全体として不満があるにもかかわらず、細部の描写はやはり手堅く面白いのだった。

 それがない息子の作品は、才能と言えば身も蓋もないが、まずは人間をどれほど愛おしいものとして見ているか、というあたりに差がありそうな気がするのだ。

2020年12月29日火曜日

『残酷で異常』-小品

  ループ物でもあり、SSSっぽくもある。アマゾンビデオで評価が高く、それほど長くもないので。

 悪くない。謎めいた展開も、最後の微妙なハッピーエンドぶりも、悪くない。

 が、とても面白かったと思えるようなサスペンスやカタルシスがあったとも言えない。同じ低予算映画としては『トランスワールド』や『ランダム』の満足感の方が高かった。が、まあこういうのは偶然のようなもので、本作とて作り手の誠意は大いに感じた。

2020年12月26日土曜日

『ねらわれた学園』-美しく気持ちの悪いアニメ

  懐かしのNHKの少年ドラマシリーズだし、たぶん原作も読んでいるのだが、完全に『なぞの転校生』と混同していた。しかし大林宣彦の角川映画はやはりこちらなのだった。そういえばあれは本当にひどくて、作り手の正気を疑うほどだと当時思ったが、今観てもそう思うのだろうか。

 さて、本作は中途半端なSF設定に、学校への携帯電話持ち込みの是非を大仰なテーマとしてからめ、全体は思春期の少年少女の恋愛物語という、これもまた大林とは別の方向に迷走した作品だった。

 一方で美術の自然描写は美しく、やたらと花びらが画面に流れ、虹色の光が差し、人物の動きは作画の質が高い。つまりアニメーション映画としてはきわめて完成度が高い。

 さらにまた一方で人物の描写は、あきれるようなアニメ的デフォルメ過多な演出がされている。感情の動きが極端で現実感がない割に、実に精妙に、繊細に描かれている。滑稽だったり胸キュンだったり。こういうのを、気持ちが悪いとは感じないのだろうか、中村亮介は。本人がそれを作りたいと望んでいるのか、そういうのをファンが求めているはずだと思っているのか。どうも謎だ。

 大林宣彦のは本人の趣味なんだろうけど。

2020年12月20日日曜日

『サカサマのパテマ』-眩暈のする世界観

 重力の方向が逆になった人や物が地下にいて、その世界とこの世界が交錯するという物語設定は、とにかくそこに科学的な説明をする気もないらしいトンデモ設定なのだが、しかしビジュアル的には眩暈のするような実に魅力的な世界観だった。

 ストーリー的にも起伏に富んだ脚本がよくできていて、ボーイ・ミーツ・ガールが安易すぎるのと、ヒロインがそれほど魅力的でないのと、悪の支配者がステロタイプすぎるのが残念ではあったが、アニメーション映画としては相当に質の高い一作だった。


2020年12月15日火曜日

『運び屋』-自由で頑固

 ちょっと間が空いたが、クリント・イーストウッド監督作。かつ80代後半に入ってなお主演作。

 全体の印象は10年前の『グラン・トリノ』に似ている(そしてそちらでもうちの父親を連想させたが、こちらではさらに現在の彼を彷彿させる)。脚本家が同じなのだそうだ。

 あの作品でも既に親族にさえうっとうしがられている頑固親父の役だったが、こちらもそうだ。

 同時にその頑固親父が「古き良きアメリカの男」でもあるらしいのも共通している。そこでは相手を罵倒するような軽口が日常会話になっている文化が描かれ、それが明確にある種の文化であるらしいことが示されている。それを口にする相手との関係が重視されていたのだ。

 そこでは、それ故の時代遅れによる家族との齟齬とともに、多分イーストウッドの持ち味だろう、本質的なリベラルさが魅力となっている。

 本作でも、『グラン・トリノ』同様に異文化交流が一つのテーマになっている。それはかなり意識されているらしい。最初の農園ではメキシコ人労働者とスペイン語での軽口をたたく場面があり、「運び屋」として働くのはメキシコマフィアの下でだ。そこで相手を「タコス野郎」と呼ぶ時に、まるで悪気がないらしいのは、その後で道端でパンクした車を持て余している親子を助ける時に相手を「ニガー」と表現してしまうこととか、「兄ちゃん」と呼びかけたバイクのライダーが女性であったりする場面に共通している。頑固なアメリカの白人親父の文化と鋭く対立しそうな価値の多様化の中で、ポリコレなどまるで意に介しないように振る舞う主人公が、その対立自体を乗り越えてしまう自由さをもっているように描かれているのだ。


 最後に捕まってしまうシークエンスでは『パーフェクト・ワールド』的なもうひとひねりを期待してしまった。冒頭に出てきたメキシコ人従業員や、マフィアの構成員で、最初は主人公を嫌っていたが次第に関係を築いていったフリオがもう一度物語に絡んできて、さらに物語が展開するするような、脚本上の工夫があったら、文句なしに名作なんだが。

 そこは残念だが、とにかく途中も終わりも、すこぶる楽しくてしみじみと良い映画だった。

2020年12月13日日曜日

『ハチミツとクローバー』-みんな若い

  マンガを今更ながら読み始めて、これは一体どういうキャスティングで実写化したんだろうと興味が湧いたんだが、観てみると、蒼井優の「はぐみ」が意外とはまっているんで驚く。今では随分と逞しくなってしまったが、14年前にはこんなこともできたんだ。

 櫻井翔も伊勢谷友介も加瀬亮も若い。

 この若さが、今観ると懐かしさとして映画の感触に合っているのかもしれないが、ドラマとしては演出にさしたる工夫もなく、むしろテレビドラマ的軽いお約束で人間が描かれているので、観るほどのこともなく流してしまった。

 ただ、やたらと良い、どこのビートルズフォロワーかと思うような挿入曲が誰かと思って調べてみると菅野よう子のオリジナルだった。

2020年12月12日土曜日

『フレンチ・コネクション』-映画の力が横溢した

  逃げる殺し屋の乗った列車を、線路下の道路を車で追う凄まじいシーンだけはやたらと印象に強かった映画だが、それ以外の部分は、観た覚えがなく、もしかしたら全編を見たかどうかも怪しい。

 あらためて観てみると、まあ説明不足で観る者があれこれ補って考えないとたちまち話がわからなくなる。

 それでも、とにかくジーン・ハックマン演ずるドイルの貪欲な仕事ぶり、執念には迫ってくるものが確かにある。このころ40を超えていたハックマンの、体の動くのも素晴らしい。

 演出や編集も、カットが変わると唐突に場面が変わるぶっきらぼうな編集があるあたりはドキュメンタリータッチでもあり、かと思うとスムーズにカメラが切り替わって、状況を多角的に捉えるあたりの計算された編集の緻密さは職人芸だ。


 そして何よりブルックリンの街並が素晴らしい。路地裏の薄暗さや濡れた路面、郊外らしき取引場所の廃工場の佇まい。

 廃工場の追跡場面は、どうも黒沢清に影響を及ぼしている感じだ(調べればそういう発言はありそう)。カメラは薄暗い部屋にいて、開け放たれたドアから見える向こうの部屋に何かの気配を感じる(むろん勝手に観客がそう想像するように撮られているのだ)。

 やはり映画の力が横溢した傑作なのだとあらためて納得。