2022年7月31日日曜日

『空白を満たしなさい』

 『17歳の帝国』には大いに不満だったが、続く「土曜ドラマ」枠の本作は悪くなかった。『今ここにある危機とぼくの好感度について』はさらに面白かったが、あれに続いて同枠に鈴木杏が出て好演している。子役時代を知っていると応援したくなるのだが、良い演技をしていて嬉しい。

 「複生者」という突飛な設定で、生やら絆やらの大切さをあらためて確認する話、ではある。そこに平野啓一郎お得意の「分人」論がからんだりして、結論についてはわかっているよ、という感じもする。

 が、やはりそこは実感がそれに対してどれくらいあるかだ。鈴木杏も阿部サダヲも、随分と暗い面を持ったキャラクターで、それが「生やら絆やらの大切さ」を軽くはない「真面目な」扱いに見せている。

 藤森慎吾が意外な芸達者で、うじきつよしなどよりよほど全うに役者をやっていたのに驚いた。


 といって感動的というには残念ながらまだ。面白い、とも言い難い。やはり面白さがどのようにして生まれるかというのは難しい問題だ。


 題名は、その命令形が誰から誰へのものかがわからないところが不穏で、最初は死亡時の記憶の「空白」なのかと思い、その後、精神的な空虚感、不満という意味かと思い、たぶんそうでもあるのだろうが、あいかわらず語り手がわからない不穏が、おそらく強迫観念のような感触を連想させるからだろうが、最後で、子供が親の記憶についての記憶を、ビデオメッセージで「満たしなさい」という意味で決着する捻りには感心した。

2022年7月23日土曜日

『ムーンフォール』-パターン

 アマゾンプライム・オリジナルだというのだが、ハル・ベリーとパトリック・ウィルソン主演、ローランド・エメリッヒ監督というのだから豪勢だ。

 それにしても実にパターンのディザスタームービーだった。『インディペンデンス・デイ』も『デイ・アフター・トゥモロー』もそれなりに楽しかったし、『ホワイトハウス・ダウン』はかなり楽しかったのだが、今回は『紀元前一万年』ほどとは言わないが全体として退屈だった。結局「スーパーマン映画の不可能性」になってしまうのだ。物理法則が無視されているとしか思えない。大がかりな仕掛けや絵面は制作費に見合って豪勢だったが、それよりも人間ドラマが見たかったかな。それがないとは言わないが、やはりパターン化されていて。 


『ペリカン文書』-堂々のハリウッドサスペンス

 アラン・j・パクラは『大統領の陰謀』とともに、今年度内での鑑賞。実に安定のハリウッドサスペンスなのだった。

 政治的な犯罪の隠蔽のための謀略で恋人を殺され、自分も命を狙われるジュリア・ロバーツがもう一人の主人公、新聞記者のデンゼル・ワシントンとともに謎を暴く。事件の全貌がわかっていくのとともに、暗殺者からぎりぎりの逃避行を続けるサスペンスが持続する。政治謀略サスペンスとして間然するところがない。

 が、楽しくてしょうがない、というような見方はできなかった。このての謀略ものはサスペンスのために説明をせずに物語を引っ張りすぎて、観客がついていけなくなる。特に甘い日本人の観客には、事件の全貌は複雑すぎてつかみきれない。そうなると、何に感情を動かされれば良いのかが判断しにくいのだ。ああ、そうだったのかぁ、がおこらない。

 それと、恋人を殺されたヒロインが、後半で行動を共にするヒーローといい雰囲気になるのは、物語的には落ち着くべきところに落ち着いてるとも言えるが、何となく軽い感じもする。腑に落ちない。

2022年7月16日土曜日

『ザ・バンド かつて僕らは兄弟だった』-盛衰

 ザ・バンドを知ったのは1994年のウッドストックのステージか、「クリプルクリーク」のビデオクリップだったか。だが94年はロビー・ロバートソンが参加していないのだった。知ったばかりだから誰が誰やらわからず、ともかくもそのグルーブに酔った。だから、中心人物のロビー・ロバートソンを欠いてもなお、ザ・バンドは最高のバンドなのだった。

 そのロビー・ロバートソンの語るザ・バンドの歴史。副題の「かつて僕らは兄弟だった」は終わってみれば切ない。バンドの伝記はどれもそうだ。いろんな思いを抱えてそれを続けるのが辛くなる。

 『ラストワルツ』は、多分観てるが、あらためて機会があれば見直そう。

2022年7月15日金曜日

『夜の来訪者』-精緻な脚本

 一室に集まった人々のそれぞれの事件が順番に語られる進行に、どうも舞台劇っぽいぞと途中で気づいて、後で調べてみるとやはり原作は舞台劇だった。語られる出来事がそれぞれ映画として描写されるから場面はあちこちでロケされ撮影されているが、それが語られる一室で進行しても物語は成立する。

 上流階級の不遜に対する批判、といったテーマを無理に読み取る必要はないと思う。それぞれが誰かを傷つけて、その挙げ句に一人の人物が死んでしまったことを知って後悔する、という形は「こころ」と同じで、しかも「こころ」と違って、こちらはそのまま。その痛みが充分にドラマとしてシリアスな手応えを感じさせる。

 それよりも、そんなのできすぎじゃん、という突っ込みは当然だが、その偶然の連鎖はそういう物語の構築の快感を生んでいるので、そんなリアルな批判よりも素直に面白かった。

 『フロッグ』以来の脚本勝ちの一本。 

2022年7月1日金曜日

2022年第2クール(4-6)のアニメ

『SPY FAMILY』

 初回の画の上手さと愛すべきキャラクターたちに惹かれて全話録ったが、すぐにどうでもいいようなコメディになっていった。

 OPの髭ダンとEDの星野源がやたら良い曲だったが。


『トモダチゲーム』

 原作は『カイジ』以来のパズルゲームとして、それなりに良くできていると思ったが、いかんせんアニメは質が低かった。「ゲーム」的には、おおよく考えられてる、と思う一方、「アニメ・ドラマ」的には楽しみに見続けるというでもなく、なんとか最終回まで。


『四畳半神話体系』

 数年ぶりに。「四畳半タイムマシンブルース」の制作の宣伝で再放送。

 どの話も奇抜なビジュアルイメージが盛り込まれた見事なアニメーションだった。それでいて湯浅政明は総監督で各話のコンテはそれぞれ別の監督が描いてるというのだから、リーダーがいいとメンバーがそれぞれ力を発揮するの好例だな。

 続けて見るとパラレルワールド間に響き合う伏線なども拾えるから、全体として楽しい。


『サマータイムレンダ』

 思いがけず2クールなので、第3クールに。とりあえず前半戦は、ループにインベーダー、二重人格に孤島に幼馴染みと、てんこ盛り感が甚だしいが、ともかくもどんどん引き込まれてみていた。中盤からお話、アニメともに質が落ちてきて後半どうなるか。