2023年7月29日土曜日

『アンテベラム』-SF? オカルト? サイコ?

 冒頭の長回しから、よくできた映画であるような印象がある。南北戦争前の米南部の綿花農場らしい。奴隷が酷使されているのは予告編でも見た。

 さてそれと現代に生きる主人公が同じ女優によって演じられるのだから、どういうSFまたはオカルト的設定なのかと思いきや、シャマランの『ヴィレッジ』なのだった。途中の『シャイニング』的少女も、まったくのミスリードなのか。

 いやまあそれはいい。語り口はずっとうまかったし、サスペンスもアクションも楽しめた。

 それよりも、両方の世界をもうちょっと短いスパンで切り替えた方がいいんじゃないかと感じた。多分それはそれだけ脚本の難易度が上がる。ただ、冒頭の「農場編」が30分以上続くのはいかがなものか。続く「現在編」はさらに40分だ。そこで両者が合流する。いや、もうちょっと何度か混ぜて、観客のサスペンスを吊り上げようよ。

 それと、「現在編」の方の主人公の専門性が、もうちょっとドラマとして生きてくるといいのになあ、というのも贅沢な欲求。もちろん、無関係ではない。だが、ドラマとしてはもっと活かせるはずと思えてしまう。

 期待しただけにちょっと残念。

2023年7月23日日曜日

『ヒッチャー』-行動原理

  続編を観たのが9年前か。その時の調べ物で第1作は面白いという評判だったので、ようやく。

 なるほどルトガー・ハウアーの存在感がすべてだ。それ抜きには魅力のほとんどが消える。ヘリコプターを使ったチェイスとクラッシュは予想外に大がかりで感嘆したが、それを求めて観たいと思うわけでもない。やはりじわじわと追い詰められる恐怖を味わうのが期待される正しい楽しみ方のはずだ。といって、ブギーマンのようにまったく「機械」的に迫ってこられてもルーティン化してしまう。そこにルトガー・ハウアーの不敵な笑みがあると、感情が揺さぶられるというものだ。

 とはいえ本作のストーカー的な殺人鬼がどのような行動原理に従っているのかはよくわからない。ロードムービー的な舞台設定が『激突』に似ているとも思ったが、あれは過剰とはいえ仕返し、逆ギレといった原理があった。その予想にしたがって対処しつつ、それを裏切られるところに意外性があったりもした。ところがこちらのヒッチャーはどうもわからない。何がしたいんだ。どんどん人を殺しつつ、殺されたがっているようでもある。だがなぜその相手が主人公なのかはわからない。

 ターミネーターのようにしつこい相手を、最後にようやく倒すラストに素直に拍手喝采を送ればいい映画なのだろうと思いつつ、理に落ちるというカタルシスはいまいち。


2023年7月19日水曜日

『ハロウィン KILLS』-解明されないミステリー

 決着をつけるべく観る。が、もはや何の感興もない。ブギーマンはひたすら淡々と人を殺すが、もはやルーティンでしかないし、いくら暴力で対抗しようとしても殲滅は不可能だという結論に至る本作に対して、どのようなカタルシスを感じれば良いのか。といって、恐ろしいのは人間の方だといった教訓はそれもまた類型に陥るばかりだし。

 ミステリアスなはずのモンスターに、実は何のミステリーも存在しないのだと結論づけられてしまっては興味も惹かれない。何も解明されてはいないのに、何も解明される見込みはないという結論は出ている。

2023年7月1日土曜日

『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』-切ない懐かしさ

 最近新作が劇場公開されているようで、5年前の劇場版がテレビ放送された。テレビシリーズで折々伏線が紹介されていたエピソードをまとめて劇場版にしているらしいことはわかったが未見のまま、ようやく。

 見るにあたってテレビシリーズ13話を一気見して、そこから劇場版へ。

 なるほどこれは『涼宮ハルヒ』シリーズにおける『消失』なのだ。これをテレビシリーズでやるのは惜しいボリュームとまとまりと劇的さ。

 面白さという点ではやはり第一作の「バニーガール先輩の夢を見ない」の水準ではないが、テレビシリーズから見続けている時間と、劇中で何度も巻き戻る時間の眩暈のせいで、やたらと切ない懐かしさがある。

 タイムリープものって、ずるい。

2023年第2クール(4-6)のアニメ

『スキップとローファー』

 「カナリアたちの舟」を古本屋で見つけて読んだ時の衝撃はかなり強い部類だったが、作者高松美咲は連載中の青春マンガが人気を博しているという。雑誌の方をチェックしていないから知らなかったが、未読のうちにアニメ化された。

 これがまあ毎回実に楽しく、心揺さぶられるエピソードが盛り込まれている。そしてそれが丁寧にアニメとして描かれている。黒沢ともよが、主人公の無垢でしぶといキャラクターを体現していて、この先、原作を読むときもこの声を思い浮かべるだろうことは必至。


『山田君とLv999の恋をする』

 監督の浅香守生は『カードキャプチャーさくら』よりも『GUNSLINGER GIRL』一期の監督として記憶されている。原作もそれなりに面白いに違いないが、アニメはアニメで制作会社と監督がそれなりの仕事をしなければ面白くはならない。そういう意味でこれは良い仕事をしている。

 エンディングで、主人公が一歩踏み出す動作の挙動不審ぶりがリアルで、そのアニメーションの見事さに毎回感心していた。ロトスコープでもなさそうなのだが。


『天国大魔境』

 原作は単行本でちょっとかじったくらいで、まだ魅力を把握していないのだが、先にアニメに触れた。いやはや今クール最高。

 謎がやたらと提示されていくのは『エヴァンゲリオン』にしろ『20世紀少年』にしろ、大丈夫か、という不安はあるが、ともかくも細部の描写が的確なのは信用できる。


『鬼滅の刃 鍛冶の里編』

 結局最初のシリーズから全部見ている。CGを駆使したアニメのレベルは全体として上がっているように思う。スタジオの資金が潤沢になっているせいか。

 が、結局『無限列車編』を超えない。やはりあれは煉獄のキャラクターの魅力だった。

 それ以外には、現在展開されている戦いの最中に、それぞれの登場人物の背景エピソードを一度描いてからまた続けるというパターンなのだが、このエピソードのバリエーションがやはりパターン化してしまうのだった。


『推しの子』

 初回スペシャルが1時間半枠とか、なんかやたらと推されているなあと思っていたら、なるほど面白い。最初のうちは先の展開が気になるという感じだったし、主人公の裏工作の巧みさに感心したりもしたが、この物語の最大の推進力は、結局は何かを(誰かを)「推す」こと自体にあるのかもしれない。その一途さが物語を追う者の心を揺さぶっている。


『異世界でチート能力を手にした俺は、現実世界をも無双する』

 あまりに好都合にことが展開する「転生」+「俺つええ」系の典型的な物語だと思いつつ、その開き直ったやり過ぎ感を楽しみにするつもりになると1クールくらいはすぐに見てしまえる。伏線だとか感情の機微などを追う必要がないと観るハードルが下がって、録画が溜まらない。


『地獄楽』

 最初のうちは作画的にも観る価値があったが、そのうちそこは並のアニメになっていった。孤島にある『極楽』の設定の行方が気になって見続けたが、最後の方は何だか無理矢理のインフレになっていったのは残念。


『デッドマウント・デスプレイ』

 成田良悟の原作だというので録画はしてあるが溜めたまま。