2022年12月27日火曜日

秋から冬にかけてのドラマ

 最近観たドラマをまとめて。

 『ジャパニーズ・スタイル』は舞台劇をドラマとして見せるという珍しい形態のドラマ。稽古も1日だけ、本番も一発録りだという。途中に挿入される別撮りのカットがなければ基本的には単なる舞台劇。スタジオには観客さえいる。

 仲野太賀の演技には毎回唸った。これだけの仕事をこなしながら、なおこれだけの演技の把握をして実演してみせるのはすごい。

 意外なことに9話まで続いたのは長すぎると感じたが、とにかく舞台劇の面白さを(そのうち)生徒に伝えるべく、全話録画を残しておく。


 『霊媒探偵城塚翡翠』

 原作の「medium 霊媒探偵城塚翡翠」はさすがミステリー賞5冠で、圧倒的な面白さだった。これは別メディアでもほっとかれるはずはないと思っていたら、ようやく、という感じの実写ドラマ化。

 クオリティはテレビドラマレベルという感じだが、清原果耶の演技には感心した。どうみても嫌みなキャラクターなのに、不自然でもなく嫌みにもならない。これだけのこなれた演技をするのは本当に見事だと思った。

 そして何より、謎解きの面白さは原作譲りで、例えば『屍人荘の殺人』に比べても圧倒的だと思う。


 『エルピス』

 実は10話のうちの最後の3話しか見ていない。渡辺あやの脚本だということを知ったのがそこからだったので。

 最後の3話だけ観ても凄まじいレベルであることがありありと感じられた。報道が社会に与える影響と、自分の生き方の選択をぎりぎりまで考えて、どう行動するかを観る者にまで迫ってくる。

 同じ、報道がテーマであるはずの『新聞記者』があれほど観念的にしか描かれていないのに比べても、テレビドラマのレベルの高さに、映画関係者は恥じ入ってほしい。


 これと続けて、2022年オーストラリア最優秀ドラマ賞受賞の『The Newsreader』を観た。こちらもテレビ局の報道部を舞台にしたドラマだが、報道がテーマというよりテレビ番組を作るバタバタと、そこで成功しようとする人々の人間模様を描いて、なるほどの面白さではあったが、単純に「面白い」と言い捨てられない『エルピス』の凄さをあらためて感じられたり。

2022年12月14日水曜日

『ハイテンション』-ハイテンション

 フレンチ・ホラーの先駆けということで知ったアレクサンドル・アジャのスプラッター。先にパスカル・ロジェの『ゴーストランドの惨劇』を見て、これはこのくくりで複数見てもいいかと。

 屋敷に押し入った男に一家が次々と殺されていくというだけの、『十三日の金曜日』『ハロウィン』『スクリーム』あたりの殺人鬼物の縮小版。最近では『パーフェクト・トラップ』がこれに近い。低予算で作られていることは、上記のそれぞれ第一作と同程度か。

 それだけの話だから、もう緊迫感と恐怖の演出しかない。そしてそれはきわめて質が高かった。再生を止めて、いったん落ち着いて衝撃に耐えようと思うほどの緊迫感だった。

 ドンデン返しは悪くないが、そこに至る、わかってから解釈がかわるような伏線があるでなし、単に意外だというだけの無理矢理な「返し」だった。そこで評価するのには無理がある。

 それでも、そういう意外性自体が心に残ってしまうという効果は確かにあって、何やら面白かったような印象もないではない。

2022年12月10日土曜日

『ラスト・ブラッド』-何も

 例の押井守がらみのシリーズの、海外制作実写版。とりあえず落とし前的に観る。

 アクションは悪くないが、まあ別に見てどうということもない。CGはきわめてチャチく、外国人の撮る日本の描写はもちろんインチキで、どういう必要があって実写映画にするのかわからない。

 アニメ版も、ストーリーがあるわけでもないし、どんな人間ドラマがあるわけでもないのだが、描写がすばらしいだけで価値はあるのだ。この実写版には何も見るべき物はなかった。

2022年12月7日水曜日

『ファイナル・アワーズ』-それなりに大作で佳作

 終末物。題名もそのまま終末。

 彗星が地球に衝突して人類が滅亡するまでの数時間、というのだから『エンド・オブ・ザ・ワールド』を連想するのは当然だが、まあタッチは全然違う。

 終末の絶望に恋人の前から立ち去って、現実逃避的・狂騒的で絶望的なパーティー会場へ向かう主人公は、最初のうちは不快な人物として描かれる。それが道中、たまたま少女を悪漢から救って、彼女を父親に会わせるという目的を得てからそれなりに共感もできるようになる。

 基本的には終末に向かうだけで、事態が好転する要素はない。会いに行った相手が死んでいたり、別れるしかなかったり。最後に恋人の元に戻るが、一緒に終末を迎えることに救いを感じられるわけでもない。

 全体には、意外と安っぽいところのないしっかりした映画ではあった。

『音楽』-音楽の初期衝動、みたいな

 4000万枚の作画全て手書きというインディー製作の労苦が全面に立ってしまうが、そこで評価する必要はないはず。面白いかどうかだ。

 面白いところはある。アニメ表現としても見所はある。シュールな表現が平凡な描写から飛躍して、おお、と思わせる。なぜか平岩紙が男子高生を吹き返している森田君のキャラクターは微笑ましいし、エンドロールを見てから見直した岡村靖幸の突然の吹き替えシーンは、あまりに岡村で笑ってしまった。

 もちろん肝心の音楽の初期衝動、みたいなものの感触は捉えられている。最初にみんなでせーの、で音を出した瞬間の快感とか。

 だが音楽を楽しむために不可欠なはずの持続した取り組みが途中で失われてしまうのに、最後はリコーダーでセッションに参加するという捻ったドンデン返しを狙っているらしい展開が、なぜリコーダーはうまいのかという説明もなく、それができてしまうというご都合主義的な展開に冷めてしまう。

 面白いということになっているらしい「間」も、どうもせっかちな観客にはもどかしいばかりで効果的とも思えず、全面支持という気にはならなかった。

2022年12月3日土曜日

『クレイジーズ 42日後』-安上がり

 引き続き終末物。今度はゾンビ物でもあり。

 ロメロの『クレイジーズ』の続編でも何でもない。『28日後』をあてこんでもいる。原題は『Alone』だ。

 基本的には感染症で人々がゾンビ化するという『クレイジーズ』でもあり『28日後』でもあり、という終末物なのだが、大部分はマンションの部屋に籠もって「Alone」しているので、安上がりな作りだ。終末物に惹かれる要素の一つは、人気のなくなった街の風景なのだが、なんせほとんど室内だし、走るゾンビ的感染者はうるさいし。

 予算の規模感の中ではまずまずがんばっているという感じ。