2019年3月20日水曜日

『GAMBA ガンバと仲間たち』-ここには何もない

 原作『冒険者たち』は小学校の4年生くらいの、生涯ベスト級の読書体験だったし、その入口となったアニメ『ガンバの冒険』は、やはり生涯ベスト級でもあり、かつ44年前のアニメというハンデをものともせずに現在観ても一流の作品だというのに、「構想15年」という訳のわからない煽りと古沢良太の脚本に期待をこめて観てみると、もうなんともはや無残な代物なのだった。
 ここには何もない。
 現在の技術でアニメ化しました、というような感心させられるような要素が全くないというのも驚くべきことだ。CGにしたから何なのだ。『SING』を観たばかりで、そのセンスの差には呆然としてしまう。キャラクター・デザインには好き嫌いがあるだろうからどうでもいいが、イタチの動きがあんなに不自然な出来の悪いロボットのようなことにどういうメリットがあるのか。むしろ44年前のアニメこそが、そのセンスの良さに驚くべき代物だったのだとはいえ。
 期待されるのは、子供向けのTVアニメだった『ガンバの冒険』に対して、原作が現前させる文学性を表現しうる、映画としての作品性なのだが、古沢良太の脚本は、まったく何も表現していない。ラスト近くの戦いにおける原作改編部分は旧アニメの焼き直しだし、旧アニメが落としてしまった、ダンス対決や朗唱対決などの文学性は今回も表現されず。
 ボーボの死は、旧アニメで表現されなかった最大の「文学的」見せ場だったのだが、今回表現されたそれは、何の感動も引き起こさない無残なもので、これはまあ演出の問題でもある。それの何がどうして感動的なのかについて、真摯な考察も誠実な分析もない(ように見える)再アニメ化が、どうして実現してしまったのか。原作が冒涜されてしまったと感じるのはノスタルジーに固執する頑迷さだということも往々にしてあるのだが、ここには何もない、というこの感覚が間違っているとは思えない。 

2019年3月18日月曜日

『SING』-そつのないエンターテイメント

 傾きかけた劇場の支配人と、音楽ショーのために開いたオーディションに集まった、それぞれに事情を抱える応募者たちが、劇場の再興をかけて一夜のショーを開く。
 米映画らしい、起伏のあるストーリーテリングに、適度に笑わせるギャグを入れつつ、ちゃんと人情話で泣かせる、そつのない脚本。擬人化された動物のCGの動きもユーモラスで、面白い映画だと言って良い。
 といって手放しで絶賛できるような感動はなかったが。
 たぶん劇場で観ると、音楽にもうちょっと感動できる。吹き替え陣は演技だけでなく歌も歌える人たちで、音楽ショーの感動は、やはり音楽そのものの力で起こるものでもある。大音量で聴くと違う、というのは『ボヘミアン・ラプソディ』で最近体験したばかり。

2019年3月10日日曜日

『ハード・ソルジャー 炎の奪還』-B級そのもの

 ジャン=クロード・ヴァン・ダムを観ようと思ってしまうのは『その男 ヴァン・ダム』の好意的印象からだが、ああ、やはりB級だった。「なんとかソルジャー」とかいう代表作があったなあ…と怪しいうろ覚えの記憶があったのだが、『ユニバーサル・ソルジャー』にあやかった邦題なのだった。「炎の奪還」という副題も、日本語としてどうなの、というひどいセンス。確かに人質の「奪還」が映画の主題なのだが、「炎の」って何?
 といって原題の『6 Bullets』では意味不明だし。人身売買による子供の代金が「銃弾6発」だった、というのだが、これは何かの隠喩なんだろうか? わずかな金額、というなら6ドルでよかろうに。6発の銃弾が物語的に意味を持っているような様子もなかったなあ。
 ついでに落ちぶれた主人公は肉屋をやっているんで、物語中で敵方から「ブッチャー」と呼ばれるのだが、これが何か効果的とも思えないし、娘を誘拐される父親が総合格闘家という設定も、何の効果があるかわからなかった。
 うーん、無い物ねだりをしてもしょうがないか?

2019年3月3日日曜日

『突入せよ あさま山荘事件』-安定した映画職人の仕事

 「浅間山荘事件」の攻防戦を、指揮した佐々淳行を主人公に描く。
 『大空港』の映画力に圧倒されて、こういうのは邦画には無理だよなあと思っていたところ、続けて見た本作に邦画を見直した。スケールとしては比べるのは無理があるが、映画力は負けてない。原田眞人作品はここ3年ほどで『我が母の記』『日本のいちばん長い日』と、それぞれ力のある作品を観て、その度、洋画を見ては彼我の差を思い知らされる邦画のレベルを見直すことになった。ちゃんと映画を撮れる職人が日本にもいるのだと。おまけに役所広司が主演だから、安定感も抜群。
 立てこもっている犯人側の視点が全くないのが難点だという批判はあるだろう。確かにそれをやれば、物語がもっと立体的になるだろうな、という期待もある。
 だが、内部がどうなっているのかがわからないという、警察側からの不安感を描くためには、あえて内部を描かない、というやり方はあるだろう。それを意図しているのかどうかはわからないが。
 警察関係者が主人公ということで、やはりこれも横山秀夫の味わい。困難な作戦に、それぞれの部署のそれぞれの立場の関係者が、それぞれの背景を負って立ち向かう。その複雑さと、それが組み合わさって物事が成就する充実感は大きい。

2019年3月2日土曜日

『大空港』-堂々たるハリウッド・エンターテイメント

 有名なシリーズの第一作ということで放送されたのを機に。雪で機能不全に陥りかけた空港で起こるさまざまなトラブルに対応する空港長や旅客機機長や航空会社社長やスタッフの活躍を描く。
 始まってすぐ、これはまた見事なハリウッド映画だと感心しきり。数多くの登場人物が人物がそれぞれに抱えるドラマをわずかな断片で見せながら、それらをストーリーの中に組み込んでいく。脚本が巧みなら、演出と編集も映画的な技術の粋を極めた観がある。斬新というのではなく、映画的見せ方の手堅さからくる安心感が、物語の緊迫感を損なわない。
 物語に暗さはないのだが、複数の家庭崩壊が描かれるところが時代を表しているのだろうか。70年代パニック映画の嚆矢だというのだが、それよりも人間ドラマの絡み合いの方にこそ見所があった。そういう意味では横山秀夫作品の味わいに近い。
 映画的には、バート・ランカスターやディーン・マーティンなどの主役級には思い入れはなく、むしろジョージ・ケネディが画面に現れると、その安心感たるや、もはや快感ですらある。