2023年10月15日日曜日

『VIVANT』-萎える

 豪華キャストに大規模海外ロケとかまびすしい宣伝に乗せられて見始めると、なるほど手がかかっている。これで脚本が安かったら見るに値しないが、そういうこともない。

 というより、日本のドラマとしてはほとんど類を見ないほどよく考えられている。こういう、構成の込み入った、コンゲーム仕立てのポリティカルアクションが見るに値すること自体が驚くべきことではある。ここが真相かという驚くべき展開が幾重にも裏切られていく。その末にヒューマンな決着に向かうポジティブさもいい。

 にもかかわらず、最後まで見るには少々うんざりしながら半ば義務感に押されてようやく、ということになったのは、どうにも大仰な演出についていけないからだ。あれだけの芸達者たちが集まって、熱演につぐ熱演を見せるのだが、これがどうにもアツクルシイ。

 いや『最高の教師』もまた結構あつくるしいドラマではあった。時折身が引けてしまうところがないとは言わないが、全体としては打たれてもいた。

 それが『VIVANT』では生じなかったのはどういうわけか。

 大体、謎のワードを題名にして、それが何なのかがわかったあともそのまま題名として使われていることに萎えてしまう。『別班』でいいではないか。謎を引きとして使うことが自己目的化している。そういうあざとさが、あつくるしいヒューマン風味とあいまって、ちょっとうんざりしてしまったのだった。

2023年10月9日月曜日

『リチャード・ジュエル』-間然するところない

 もちろんいずれ見ようと思っていたのだが、アマプラの見放題が終わりそうなのに後押しされて。

 正義感が強すぎてかえって周囲にうっとうしがられる主人公が、少数の理解者とともに官憲と戦って勝利するまでの過程が、呆れるほど手堅く描かれる。そう、クリント・イーストウッドというキャラクターが背後にいるのは確実なのに、映画の手触りは驚くほど滑らかで、必要なことがあまりに的確に描かれていくと感じられる。不自然さとかぎこちなさがまったく感じられない。こういうのを職業監督というのだろう。

 間然するところがない。

2023年10月2日月曜日

2023年第3クール(7-10)のアニメ

『アンデッドガール・マーダーファルス』

 超常現象がアリの世界でそれでもミステリーという、いくつかは先行例はあるものの、ちょっと掟破りの設定で、かつホームズやルパンやらオールスターキャストが楽しそうだと思って見続けた。最終話ではいささか読みようがない真相にちょっとうんざりしたが。


『無職転生』

 第1シーズンを配信で観ているので、第2シーズンは最初から放送時にそのまま。

 監督も替わって、第1シーズンほどのクオリティはないが、登場人物たちへの愛着も、ときどきやはり面白いと思わせる場面も、捨てがたい。主人公の心中語を杉田智和が演ずるのがやはり大きな魅力の一つ。まるで『涼宮ハルヒ』だが、確かにキャラクター的にも大いなる共通性があるな。


『文豪ストレイドッグス』

断片的にチャンネル替えの途中で観る作画は安定して高品質だったので、ずっと気になってはいたので、このクールはとうとう。やっぱりここまで観ていないのでちっとも話がわからないのだが、アニメはうまかった。


『呪術廻戦』

 安定。すごいレベルで。

 渋谷事変をアニメ化するかぁ。とうとう。

 そのまま第4クールに続く。

2023年10月1日日曜日

『こころ』-絵解き

 名匠市川崑の1955年作品。

 意外なほど原作通りに忠実に映像化しているし、いくつかの場面では微妙な心理の綾も描かれているとは思うが、とうてい原作のような情報量はなく、そして解釈は平板だった。いや、もしかしたら「私」とKの男色解釈も微妙に組み込んでいるのかもしれない。だが特に職業柄関心を持たざるを得ないその近辺では、実に残念な省略があって、いっそうその平板さが印象的だった。

 そのわりに作品全体を映画化しようとする以上、先生と大学生の「わたし」のかかわりに大きく時間を割くしかなく、どうにも蛇足と思われる終盤の大学生と奥さん(静)のエピソードの創作にはがっかり。

 市川崑の演出の手堅さを認めるとしても、面白かったかといえば面白くはなかった。

この1年に観た映画・ドラマ 2022-2023

  8月末で「この1年」を区切る習慣になっているのだが、1ヶ月以上過ごして、なんとその間、一本の映画も観ていない。仕事の合間に録画したテレビドラマやらアニメやらの消化に追われて、2時間腰を据えて映画を観るという態勢になれない。

 約70本のリストを見直してみると、この1年を象徴するような一本がないのだった。それでもとりあえず10本。


11/06『パーティーで女の子に話しかけるには』-パンクSF

11/13『女神の見えざる手』-最高級

11/27『孤独なふりした世界で』-孤独な終末

1/6『トゥルーマン・ショー』-複雑な感情

1/22『15時17分、パリ行き』-驚愕の映画作り

4/8『イミテーション・ゲーム』-人間のふり

4/22『バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡』-なんとも

5/29『ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書』-社会正義とエンタメ

8/7『トレインスポッティング』-「青春」の一つのあり方

8/10『トレインスポッティング2』-前作という「青春」

8/19『キャスト・アウェイ』-相対化


 次点

3/7『Run』-満足度の高い小規模映画

3/31『メランコリック』-磯崎義知という役者


 『女神の見えざる手』『トゥルーマン・ショー』『15時17分、パリ行き』『イミテーション・ゲーム』『バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡』『ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書』『キャスト・アウェイ』あたりのメジャー映画はさすがのつくりにうならされた。

 『トレインスポッティング』は2本セットで、流石のダニー・ボイルの力業にも圧倒されるが、なんとも忘れがたい「青春」の味わい。

 『パーティーで女の子に話しかけるには』『孤独なふりした世界で』『Run』『メランコリック』あたりは小品としての味わい深さと愛しさで10~12本に数えたが、これらが入るくらいには良い映画が少なかったともいえる。なぜか小品のこれらのうち2本にエル・ファニングが出ている不思議。

 それにしても12本まで数えて邦画がようやく一本。

 とはいえ観直し映画には素晴らしい邦画もある。

 この1年では、観直しの『涼宮ハルヒの消失』『東京ゴッドファーザーズ』『雲のむこう、約束の場所』はアニメとして完成度が高かったり思い入れがあったり、やはり素晴らしかった。実写の『ホワイトハウス・ダウン』『クライマーズ・ハイ』『打ち上げ花火』もやはり圧倒される思いがあった。


 ところで海外のテレビドラマのシリーズをアマプラやテレビで見続けたりもした。いくつかは実に「あたり」だった。アメリカだったり欧州のどこかのだったりする刑事ドラマやらサスペンスやら。これらの印象は、多くの映画に比べても負けない強さをもっている。

 ところで日本のドラマも(上記の通り今年の邦画は振るわなかったものの)いくつかは忘れがたい印象を残したものを観た。

 「大豆田とわ子と三人の元夫」をようやく観たのだが、これは驚嘆すべき面白さだった。坂元裕二の脚本がすごいのはもちろんだが、演出とキャスティングが相俟って。毎回カメラに向かって松たか子がタイトルを言うのは楽屋落ちになる危険があるはずなのに、まったくその危うさを感じさせない堂々の余裕で、そのユーモアを観客に伝える。伊藤沙莉をナレーターとしてのみ採用し、これがまた効果的、という、本当にレベルの高いドラマだった。

 坂元裕二の安定に比べるとまるで危なっかしいが、「最高の教師」には熱狂した。次の回が待ち遠しく、録画して程なく観てしまうという番組はそうそうない。サスペンスでひっぱる興味も効いていたが、なにより、若手俳優陣の熱演がすごくて。最終回の一つ前の回まできて、そこまで全く表に出てこなかった名前もわからない生徒がすごい演技を見せて圧倒されたり。

 もちろん「最高の教師」というテーマが既に相当に危ないし、最後にそれをもう一ひねりするにしても、その説教臭さはあまりいただけない、とは思っていた。だが、最後に「のぶたをプロデュース」のような人の悪意を描くのかと思いきや、独特の人物造形をそこに配置する結末にうなった。

 ネットにスピンオフが公開されているが、これまた驚嘆すべきレベルで役者陣が劇中の人物として語っている。ドラマ中の時間の3年後という設定でインタビューを受ける、という、完全に脚本と演技の力で成り立つすごいドラマ。

 さらに「最高の教師」の外伝で「最高の生徒」というドラマも作られていて、こちらは単に女子高生が遺伝病で1年の命と告げられてからの日々という、甘々の下手物になりそうな設定なのだが、これまたキャストの演技が見事で、ちゃんと彼女の最期が重大事であることが観客に伝わる。これもまた忘れがたい。

 そして「エルピス」も、あらためて全話観た。全話観ると前に観た最後の3話の感動もひとしお。力のある台詞を力のある演技で見せる力のある演出。脚本、俳優、演出が力を発揮した見事な完成度だった。これが「大豆田とわ子と三人の元夫」と同じ「カンテレ」の制作だということも今回初めて意識した。


 以下、今年観た映画リスト。


9/15『ニューヨーク公共図書館』-寡黙なドキュメンタリー

9/17『友だちのうちはどこ』-前と同じ

9/18『パーフェクト・トラップ』-『SAW』トリックは無し

9/20『泣きたい私は猫をかぶる』-アニメ的にうまいだけの

9/24『8番目の男』-真面目に見られない裁判劇

9/24『特捜部Q カルテ64』-ますます偏屈

9/26『特捜部Q キジ殺し』-なぜか面白い

9/27『埋もれる殺意 18年後の慟哭』

10/22『漁港の肉子ちゃん』-愚かで無垢な

10/23『9人の翻訳家 囚われたベストセラー』-バランス感覚

10/27『ロスト・ボディ』-後味が良くない

10/30『埋もれる殺意 39年目の真実』

10/31『涼宮ハルヒの消失』-13年を挟んで

11/06『パーティーで女の子に話しかけるには』-パンクSF

11/06『サン・オブ・ザ・デッド』-ゾンビに肩入れ

11/13『女神の見えざる手』-最高級

11/13『プリズナーズ』-父親の焦燥

11/21『鑑定人と顔のない依頼人』-映画的

11/26『地球最後の男』『アイ・アム・レジェンド』-リメイク見比べ

11/27『孤独なふりした世界で』-孤独な終末

12/3『クレイジーズ 42日後』-安上がり

12/7『音楽』-音楽の初期衝動、みたいな

12/7『ファイナル・アワーズ』-それなりに大作で佳作

12/10『ラスト・ブラッド』-何も

12/14『ハイテンション』-ハイテンション

1/1『竜とそばかすの姫』-当然のように

1/1『劇場版 少女歌劇レビュースターライト』-贅沢を言えば

1/1『東京ゴッドファーザーズ』-圧倒的

1/3『The Devil's Hour』-物語につきあう

1/6『トゥルーマン・ショー』-複雑な感情

1/7『ハンガー・ゲーム』-予断

1/9『ハンガー・ゲーム2』-途中

1/14『ファイナル・デッドサーキット』-漸減

1/17『雲のむこう、約束の場所』-圧倒的に感動的

1/21『ペリフェラル ~接続された未来~』

1/22『15時17分、パリ行き』-驚愕の映画作り

2/4『映画大好きポンポさん』-理屈が立たない

2/5『ガントレット』-やりすぎ

2/14『ジェイソン・ボーン』-カーチェイスの凄さ

2/19『パラドクス』-年来の

2/25『ブロンコ・ビリー』-ハッピーエンドに残るほろ苦さ

3/7『Run』-満足度の高い小規模映画

3/9『Swallow』-ヘイリー・ベネット

3/15『ホワイトハウス・ダウン』-面白い

3/18『エンド・オブ・ホワイトハウス』-続けて競作を

3/20『KOTOKO』-巧い役者としてのCocco

3/21『エンド・オブ・キングダム』『エンド・オブ・ステイツ』-

3/22『ドント・ブリーズ2』-腹八分目

3/24『クワイエット・プレイス2』-また八分目

3/26『キャメラを止めるな』-邦画リメイク

3/26『ハードコア』-全編一人称カメラ

3/27『プロメア』-疲れる

3/31『メランコリック』-磯崎義知という役者

4/8『イミテーション・ゲーム』-人間のふり

4/22『バードマン あるいは無知がもたらす予期せぬ奇跡』-なんとも

4/25『BECKY』-タフなローティーン

5/1『プリズン・エクスペリメント』-看守への共感

5/5『プロミシング・ヤング・ウーマン』-リアルな問題

5/19『ダーク・アンド・ウィケッド』-キリスト教圏ホラー

5/29『ペンタゴンペーパーズ 最高機密文書』-社会正義とエンタメ

6/28『クロール 凶暴領域』-強い父娘

7/1『青春ブタ野郎はゆめみる少女の夢を見ない』-切ない懐かしさ

7/19『ハロウィン KILLS』-解明されないミステリー

7/23『ヒッチャー』-行動原理

7/29『アンテベラム』-SF? オカルト? サイコ?

8/7『トレインスポッティング』-「青春」の一つのあり方

8/10『トレインスポッティング2』-前作という「青春」

8/10『ブラック・フォン』-明確な欠点

8/11『ブラック・ボックス』-好みの結末

8/14『クライマーズ・ハイ』-それぞれの「善」

8/15『打ち上げ花火』-「懐かしい」

8/19『キャスト・アウェイ』-相対化

8/21『ラスト・ナイト・イン・ソーホー』-脚本のうまさでひっぱる