名匠市川崑の1955年作品。
意外なほど原作通りに忠実に映像化しているし、いくつかの場面では微妙な心理の綾も描かれているとは思うが、とうてい原作のような情報量はなく、そして解釈は平板だった。いや、もしかしたら「私」とKの男色解釈も微妙に組み込んでいるのかもしれない。だが特に職業柄関心を持たざるを得ないその近辺では、実に残念な省略があって、いっそうその平板さが印象的だった。
そのわりに作品全体を映画化しようとする以上、先生と大学生の「わたし」のかかわりに大きく時間を割くしかなく、どうにも蛇足と思われる終盤の大学生と奥さん(静)のエピソードの創作にはがっかり。
西川美和の『ゆれる』を観たときに「これって『こころ』だなあ」と思った記憶がある。もはやどうしてそうなのかは全く覚えていないが。
それに比べれば、市川崑の演出の手堅さを認めるとしても、面白かったかといえば面白くはなかった。
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