2022年4月30日土曜日

『ブラック校則』-拮抗しない

 『オッド・タクシー』の傑作ぶりに、脚本の此元和津也のことを調べて、テレビドラマではスルーしていた本作を観てみる。

 「ブラック校則」はネタの一つではあるが、それよりも学校を舞台にした伏線回収の趣向のあるサスペンスなのかと思っていた。『オッド・タクシー』のせいだ。

 ところがタッチは『野ブタをプロデュース』的な学園コメディで、にもかかわらず「ブラック校則」がテーマになっているところで結局は不満足な出来だった。

 確かに会話の面白さが光るところが一瞬あったり、校舎の壁の落書きが増殖していくところはポリフォニックな会話劇・群像劇の面白さがあったりもした。

 最後の主人公の演説も、内容はともかく熱演にほだされて、エキストラの高校生たちとともに拍手を送りたくなった。


 それでも、だ。「ブラック校則」が物語のモチーフになっているではないか。さまざまな行動の動機に、どうしてもそこがからむではないか。

 それがあのように浅はかに語られてしまうことに、どうしてもがっかりしてしまうのだ。

 「ブラック校則」の問題は、それを支持する人の思想や感情が、それなりに理解できてしまうと思えるように描けるかどうかが決定的に重要なのだ。『新聞記者』も『Fukushima50』も、それができていないから評価できないのであって、「ブラック校則」も、「ブラック校則」の問題に向き合って闘う主人公たちであればこそ応援できるのに。

2022年4月24日日曜日

『攻殻機動隊SAC』-おそるべき

 多分通しで2回は観ていると思うが、連続エピソードである「笑い男事件」についてはどうにも全貌を把握できないままでいた。

 今回、娘につきあって、比較的まとまった期間に連続で観て、ようやくそういうことかとある程度は把握できた。

 よく考えられている話が、複数の脚本家によって分担されているのに感心するが、これも世界観についてのミーティングが綿密に行われているからなのだろう。

 そして作画のレベルも、2クール26話、まるで落ちない。

 ラスト2話のタチコマの自爆の浪花節にはちゃんと泣かされてしまうし、やはりおそるべきシリーズなのだった。

2022年4月21日木曜日

『天使のたまご』-雰囲気だけでは

 突然、配信終了間近であることに気づいて、30数年ぶりに観てみる。

 その間、忘れていたわけではない。『ビューティフル・ドリーマー』に感動して以来、押井作品を全て観ようとビデオレンタルした中の一本。今も押井守とセットでいつでも思い出すのだが、観直すことになるとは思っていなかった。ソフトを買おうというほどの動機もないし。


 『BLOOD The Last Vampire』『王立宇宙軍』などは、観直してその高品質ぶりにあらためて感じ入ったのだが、同様に「観直す」というような変化はなかった。

 もちろんイマジネーションは豊穣で、その世界は魅力的でないこともない。が、それは当時もそう感じたのであって、古めかしさはいかんともしがたかった。

 いかんせん、ここまで物語がなく、どうということもないカットが長いと、心が動きにくい。

 「物語」らしいことといえば、兵士が少女の卵を壊すことだけだが、それついての教訓的な解釈は理に落ちてしまって、特に感慨を催すわけでもない。


 ところで最近『スペース・ダンディ』の第21話「悲しみのない世界じゃんよ」を観る機会があったのだが、そういえばこの絵コンテ・演出をやっている名倉靖博が、本作でも作画監督なのだった。

 脚本が違っても、似ている雰囲気に同じ名前を見つけて腑に落ちるところもあるのだった。

2022年4月15日金曜日

『ODD TAXI』-恐るべき傑作

 映画版が公開中なのだが、そちらではなく、テレビ版を配信で。三日で全話。

 去年の第2クールの放送だから『SSSS.DYNAZENON』とか『ゴジラ・シンギュラポイント』と同じ時期の放送だ。スカートの主題歌がすごくよかったものの、勝手に、オフビートなほのぼのギャグアニメなのかと思って見なかった。

 ところがこれがミステリーなのだと知って、しかもすごくよくできているのだという評価があり、その良さを語る上で内田けんじの名前が引き合いに出されていることから俄然観てみようということになった。

 1話だけでもちゃんと観ればよかった。そうすれば既にただものではないことはわかっただろうに。

 会話にウィットがあって、次々と出てくる登場人物が明確な印象がある。そして引きとしての事件と謎。

 最後まで観れば、カタストロフにつながりそうなサスペンスと怒濤の展開に、伏線の回収と救い。さまざまな要素が高いレベルで作られている。

 そして会話はずっと面白い。やりとりのウィットはむろんだが、主人公の小戸川のキャラクターが、演じている花江夏樹の見事なキャラクター作りとともに、絶妙な魅力となっている。


 そして、アニメでしかできないメタな仕掛けが、驚愕の結末とともに訪れ、そこにカタルシスと救いが重なる。

 恐るべき傑作。

2022年4月1日金曜日

『ランダム 存在の確率』

 配信終了が近いことを知って突如観直す。やはり面白い。あるカットを複数台のカメラで写していると思われるのだが、それぞれのカメラは写らない。見事な撮影に見事な編集。それでいて黒沢清のように計画ずくで撮っているわけではなく、アドリブを含む演技で成り立っているというのだ。

 小品とはいえ見事な作だと思う。