2024年3月23日土曜日

『ビューティフル・マインド』-高評価の訳

 天才数学者を描いた映画と言えば近いところで『イミテーション・ゲーム』だし、統合失調症を描いた映画と言えば『シャイン』だが、アカデミー賞を総なめにしている本作は、そのどちらほどにもよくできているとは言い難い印象だった。

 無論、出来が悪いとは思わない。映画自体はロン・ハワードによる手堅い職人芸だし、ラッセル・クロウもジェニファー・コネリーも達者な演技ではあった。が、監督賞や俳優賞をとるほどの特別さとも思えなかった。主人公の妄想が、ある時突然明らかになる時に壁一面に貼られたメモの異常さが画で示される映画的な描写は見事ではあったが。

 ことにアカデミーが脚本賞を与えたというのが解せない。どこにそんな面白さがあったか。妻の愛がジョン・ナッシュを支えたという結末なのだが、そうした過程が充分に描かれているとは思えず、彼女は単に苦労したが逃げ出さなかった程度にしか描かれていないように見える。その葛藤はどんな論理で描かれているのか。

 この映画の重要な映画的トリックであるところの叙述トリックも、驚きはしたものの、感動につながったかといえばそうでもない。叙述トリックが感動的であるためには、1.伏線を回収するカタルシス。2.妄想で見えている3人が、物語的にどういう意味を持った3人であるかに納得できる。3.妄想であることがわかったとき、その事実に身を切られるような喪失感を感ずる。といった要素が必要だろう。2についてはそれなりに説明できるものの、なるほどそうだと腑に落ちるように描かれているとも思えない。ということで、意外性と主人公の狂気を描くためにいたずらに設定されている感が強かった。

 良い映画ではある。だがあれほどの評価の高さがどこから生じているかがわからない。アカデミー賞の作品賞は、何かしらアメリカ的な事情があるんだろうなと思えるのだが、それが何なのかわからない。


2024年3月20日水曜日

『一秒先の彼女』-幸せに満ちた

 アマプラのリコメンドで上がってくるまでまったくなんの情報もなかったが、かなりの高評価に、リメイクは宮藤官九郎の脚本だという。リメイク版の最初をしばらく観たが、思い直して原作を。

 台湾映画といえば『牯嶺街少年殺人事件』くらいしか観た覚えがない。さて。

 最初のうちは高評価の期待に支えられて見続けたが、軽いコメディという感触くらいでしかなかったが、消えた一日の謎をさぐるべくヒロインが動き始めてからにわかに面白くなった。ヒロインの愛嬌のあるキャラクターの魅力でもあるが、謎でひっぱるストーリーテリングの巧みさが大きい。

 だがさらに、前半が終わって後半は主人公を変えて、前半のできごとを別の視点から見せる。そして消えてしまった一日へ展開する。コメディタッチの恋愛ドラマかと思っていたら、「時間が止まる」などという超常現象が起こる展開にびっくりし、その時間の特別さが実に愛おしく描かれる。

 とりわけ、満潮になると水面下に沈む、何かの養殖場らしい桟橋をバスが走るシーンは、高揚感に満ちた展開なうえにとても美しかった。

 基本的には伏線を張って、それを幸せな方向に決着させる、本当によくできた幸せな映画だった。

2024年3月2日土曜日

『スウィング・オブ・ザ・デッド』-低予算ゾンビ映画

 インディーズでゾンビ物といえば『コリン』だが、これもまあセンスは悪くない感じではあった。

 ただ、何か心揺さぶられるようなエピソードがあるかというとそうでもなかった。がっかりしてしまうような安っぽい描き方にいらいらするというわけではないが、だからといって面白さがあるかといえばまたそれは別の話。後味が悪いのも残念。

 緑がやたらときれいなのは印象的だったが。