2020年11月27日金曜日

『ダークハウス』-安い恐怖続く

  とりあえず、そんなに長くないホラー映画を、という感じなのだが、とりあえず、というにふさわしい出来だった。

 ジェームズ・ワン制作というのがもうすっかり『死霊館』シリーズの劣化版という感じだった。邦題もそれをあてこんでいるのは明らか。

 作品としては悪くない。ひどい邦画のように、観ていて腹が立つようなことはない。

 だがまあ感心もない。

 ついでにいうと、原題の『Demonic』に示されているように、敵が悪魔というのはあまり日本的ではないのだろう。映画としては優れていると思いながら『ヘレデタリー』のラストに満足しきれなかったのもそこだった。なんとなく最後に悪魔が出てくると白ける。日本人としては。『死霊館』の「死霊」も、なんとなく悪魔っぽい。

2020年11月16日月曜日

『フローズン』-安い恐怖

 スキー場のリフトが止まって、コースの途中、地上数十メートルに取り残されてしまったら、というワンシチュエーションスリラー。これもある種のSSSか。印象は『ロスト・バケーション』に似ている。ということはサメ映画もSSSなのか。

 となれば起こりうることをどう想像力豊かに盛り込んで、かつ演出をどうするか。

 とどまっていれば凍死するしかない。すぐに救助が来ることは期待できない。飛び降りるしかない。果たして無事に済むか?

 取り残された3人のうち1人が意を決して飛び降りると、はたして足を骨折する。彼はどうするか? 残る2人は?

 だが、なんということか、地上には狼が徘徊し、降りたものは食い殺されてしまうのだった。

 やっぱりサメ映画!

 

 しかし印象としてはこれは余計な設定だと感じた。

 飛び降りる恐怖は骨折の危険に因るだけでいい。狼に襲われるとなれば、降りることができないということに等しい。そうなるとリスクとベネフィットのバランスが崩れて、選択が迫られることにならない。

 だから画に描いたような泣きっ面に蜂状態は、むしろチャチに感じてしまうのだった。

 そして狼は具体的で決定的な脅威として物語中で描かれているのに、実際には恐怖は感じない。これは描写力不足のせいだ。迫ってくるものがない。


 主人公にそれほど好感が持てないのも困ったものだ。ちゃんと魅力的に描いて、観客に応援したくなる気持ちにさせてほしい。


 ということで残念な出来だったが、まあ低予算でもあるので残念さも緩和される。

2020年11月6日金曜日

『ライト/オフ』-ショートムービーでいい

  有名なYoutube動画が元になっているとは聴いている。見たことはある。それを、同じ監督が長編化したものだという。

 ホラー映画としては充分に怖かった。だがその怖さはショートムービーを超えていない。

 むしろ長編になることで描かなければならない辻褄やらドラマやらが、かえって腑に落ちない。


 ショートムービーの元々の設定は、暗いところでは影として見える化け物が、電灯を点けると消えてしまうという不思議に、見えなくなっている間に化け物が移動していて、次に電灯を消したときにはいきなり近くにいるという恐怖が重なる面白さなのだが、ここに潜む根本的な矛盾が、長い物語を描く際に邪魔になる。

 「暗いところでは見える」といっても、真っ暗闇では観客に見えないので、ある程度の灯りが画面になければならない。その上で、逆光で影になっているそいつが見えるのだ。この中途半端さが、光によって攻撃できるという、ホラー映画において重要な「ルール」を曖昧にしてしまう。

 現実的には真っ暗闇の中で襲われるのは大いに怖いだろうけれど、それは観客には見えないから、表現できない。そこに、この映画の設定の問題がある。

 薄暗がりの中に何かいるように思ってしまう疑心暗鬼こそがこのショートムービーの怖さの本質なのだ。それを、具体的な化け物の脅威と、それに対抗する人間の攻防として描かざるをえない長編映画にしたときに、恐怖の本質が失われ、安っぽさが必然的に生じてしまう。結局化け物による攻撃は物理攻撃だし、光による攻撃という対抗手段も中途半端だし。

 やはりショートムービーでいい。

2020年11月3日火曜日

『ロスト・バケーション』-「高級な」サメ映画

  実に1か月あまり1本の映画も見なかった。次々と録画されるアニメが消化しきれないうえに、アマゾンビデオでアメリカのテレビシリーズを観たりして。

 で、一ヶ月ぶりの本作だが、確か小さな岩礁で鮫から逃れるサメ映画だったはずだ、評価も高いようだ、短い映画だし、とりあえず。

 始まってみると演出も確かだし、海に入るシーンでは恐ろしく撮影技術が高い。画面が高精細だし、構図もカットも実に工夫されている。

 設定はシンプルだから、その制約の中で何を工夫するかというのが腕の見せ所。『127時間』ととてもよく似た感触で、恐怖や期待や勇気や高揚。全ての感情が濃密に描かれて、いたずらに派手な演出をするために無理なCGを使ったり、金をかけてスペクタクル感を出した大作の『MEG』に比べても満足感が高い。手堅い演出で見せる「高級な」サメ映画だった。

 良い監督だなあと思って調べてみると、そういえば『エスター』の監督ジャウム・コレット・セラなのだった。『アンノウン』『フライト・ゲーム』『トレイン・ミッション』と、これで5本目なのだった。