2025年7月27日日曜日

『Silent Fall Out』-日常と地続きの「問題」

 とある縁で伊東英朗監督によるドキュメンタリー映画を観る機会があって。

 アメリカの原爆実験によって、アメリカ国民が被害を受けたという話はいわゆるアトミック・ソルジャーでも聞くが、地上で実験をやればそりゃ一般市民にも被害が及ばないはずはないよなあ、というのが素直な感想ではある。

 まずもって日本への原爆投下も、戦略上の選択と言うよりは人体実験だったのだという説はいかにもありそうな話だが(そしてそれは公式には認められない「陰謀論」でもある)、それを自国の兵士に対しても行ってしまうところが、為政者の思考傾向の恐ろしいところだ。それなら白人から見た黄色人種に人体実験をすることを忌避したりはしないだろうことは無理なく信じられる。

 だがこれが一般市民に対してもそうなのかというと、ちょっとためらわれる。となると、為政者・科学者からしても、まさかそんなことになるとは、という結果だったのか、想定内だったのか。これは限りなくグラデーション的な怪しさではある。想定はされていたが、因果関係を認めなければとか想定外だったとか言い逃れができるという見通しでの実験優先だったのか。

 本当に知りたいのはそのあたりの「感触」なのだが、これをドキュメンタリーとして描くのは難しいことはよくわかる。

 それよりもこの問題を追及する市民運動家が、ケネディからの電話を受けるために二階に上がっている間に、ミートローフが冷めてしまったと語る、今や老齢の息子の話が妙に印象的ではある。

 この会の主催の一人である指田和さんの絵本を、ほぼそのまま動画にした、同監督による『ヒロシマ きえた家族』というショートムービーも、原爆「問題」を大上段に語るわけではなく、原爆で被害を受けて「消えた」一家族を残された写真で追うだけなのだが、そうした描き方でこそ「問題」が捉えられるということもある。これは徹底的に日常を描くことで戦争を描いた『この地上の片隅に』の手法でもある。

 原爆開発による世界情勢の変化という大問題を、兵士や市民の生活や健康といった日常から捉える目を再認識させてくれた2本。

2025年7月14日月曜日

『青春ブタ野郎はおでかけシスターズの夢を見ない』『青春ブタ野郎はランドセルガールの夢を見ない』-高校生編決着

 テレビの方で新シリーズが始まるというので、そこまでの劇場版を。ついでに前テレビシリーズの関連エピソードや劇場第一作『ゆめみる少女の夢を見ない』も観直して。

 テレビシリーズから劇場版3作が完全につながっていて、それが次のテレビシリーズにつながっている。

 さて『ゆめみる少女の』が面白かったようには、その後の2作は、話に起伏がない。『おでかけシスターズ』は設定に決着をつける意味で必要なお話ではあったが、残念ながらそれほど物語的な企みはなかった。ひきこもりのヒロインが高校進学するにあたっての葛藤や、通信制高校の是非など、見所はありそうでもあったが。このエピソードについては、やはり前テレビシリーズの、二重人格が消えてしまう喪失感の圧倒的な強さに比べて弱い。

 『ランドセルガール』は、いわば高校生編の終わりとして、そもそもの思春期症候群の発症にかかわる主人公の葛藤に決着をつける展開が描かれる。これはなんとも感動的だった。大団円の直前に、そもそものシリーズの発端だった「他人に認識されない」症候群をもってきて、その解決が大いなる救いになるという構成も見事。

 これで新テレビシリーズの大学生編はだらだらと展開しないか、不安もありつつ期待。

2025年7月1日火曜日

2025年第2クール(4-6)のアニメ

 片っ端から1話を録り、最初からテーマソングしか確認しないのが大半だが、今クールは3話くらいでやめたのが、『アポカリプスホテル』『ある魔女が死ぬまで』『宇宙人ムームー』『GAMERA -Rebirth-』『九龍ジェネリックロマンス』『ゴリラの神から加護された令嬢は王立騎士団で可愛がられる』『ざつ旅-That's Journey-』『男女の友情は成立する?(いや、しないっ!!)』『謎解きはディナーのあとで』『日々は過ぎれど飯うまし』と、けっこう多かった。だんだん作画レベルが落ちてきたり、脚本やら演出やらの人間描写が安っぽかったりでやめるのだが。

 『アン・シャーリー』は『赤毛のアン』の新作だというのに、残念きわまる。高畑勲をレストアなりリマスタリングするなりして再放送する方がはるかに有益。


『増田こうすけ劇場 ギャグマンガ日和GO』

 なんか20年ぶり? 子供も覚えている、おそろしくよくできたギャグマンガのアニメ。アニメとしてよくできている必要はまったくなく、ただやたらと早口で喋り、間を詰めて編集するだけ。元のギャグがあまりに面白いので、それだけで面白い。が、20年の年月を全く感じさせない。何の質の向上もない。にもかかわらず面白い。


『片田舎のおっさん、剣聖になる』

 平田広明の声が人柄の安定感を保証しているので、見ていて心地よい。このパターンは『俺はすべてをパリィする』だな。


『小市民シリーズ』

 シーズン1と変わらず高品質なアニメだが、びっくりするほどつまらなかった前シーズンに比べて、面白かった。1クールでエピソードが2つという引きが。謎で引っ張り、サスペンスでドキドキさせる。

 OPのヨルシカ「火星人」はヨルシカ中でもかなり好きな曲。


『忍者と殺し屋のふたりぐらし』

 大量に作られる深夜アニメで、花澤香菜は相変わらずいくつもの主役級キャラを演じているが、本作ではちょっとクールなキャラクターを演じていて、こういうのもちゃんと作ってくるところがさすが。シャフトといえばなるほどという、時々妙に高品質な作画も悪くなかったが、あまりに無軌道な作品が、どのあたりに決着するのかと最後まで見守った。だんだんわかりやすい人情ものになったのだが、それはそれで悪い印象ではない。


『ロックは淑女の嗜みでして』

 演奏シーンのアニメと、実際に演奏されている音が高品質で、音楽的にも見応え・聴き応えがあったし、基本的には痛快な展開の連続に毎度快哉を叫びつつ見続けた。


『LAZARUS』

 大御所、渡辺信一郎だが、最近作の『残響のテロル』『キャロル&チューズデイ』はどちらも面白いとは思えず、期待の中に不安も。

 映像も音楽も素晴らしく、とりわけOPの転調を繰り返すインストゥルメンタル曲は、ストリングスのアレンジの壮大さも見事で始まった途端に劇的なドラマ性を感じさせる。

 アニメーションも最初から最後まで見事で、とりわけアクション監督を務めるチャド・スタエルスキは本人も格闘技経験のあるというだけあって、「ちゃんとした」格闘を描いている。背景美術も安っぽくない。

 だが、物語に引き込まれたかというと残念ながらそれほどでもなかった。どこかで観たようなSFの寄せ集め的で、それが強いドラマを生み出しているかと言えばそうでもない。例えば、人類の存亡の危機に政府機関によって集められた特別チームがあのメンバーだというのは、ちょっと無理がある。行動しているうちに仲間意識が芽生えてくるというのは悪くないが、それ以上に、人類の危機という切迫感はどうも感じられず。ということで大きなカタルシスもなく。

 本当にアニメーションの素晴らしさには毎回感嘆していただけに、残念。


『戦隊大失格』

 前シーズンからの決着ということで。

 総じてアニメーションの質は高いままだったが、見直したいほど面白かったといえばそうでもない。怪人の作る学校空間に閉じ込められてループするエピソードは楽しかったが。それは本筋よりも「ループもの」としての楽しさ。