2022年5月29日日曜日

『シライサン』-なぜ映画では

 乙一の監督第一作。学生時代から自主映画を撮っていたとは聞いていたがとうとう商業映画も。

 呪いが伝染し、髪の長い女が迫ってくるというのだから『リング』というか『イット・フォローズ』というか。

 だがどちらにも及ばない。とりわけ『イット・フォローズ』の映画力とはくらぶべくもない。それはまあいかんともしがたいとはいえ、あの乙一が、脚本までつまらないのはどういうわけか。『ホッタラケの島』もそうだった。テクニカルにお話を作る人ではなかったか。

 あるいはあの小説の面白さは、彼の文章ありきなのかもしれない。単にストーリー構成だけで面白かったりそうでなかったりするわけではないのは、『パトレイバー the movie』の映画と小説のあまりの落差でも感じたことではあった。

 面白くなりそうな気配があったのは、シライサンについてのルールが明らかになるところからだ。ホラー映画はルールが大事、とは黒沢清か大林宣彦の名言だったが(といって彼らの映画がそれによって面白くなっているとは思えないが)、例えば『イット・フォローズ』も、そのルールを探ろうとし、明らかになったルールに対応して作戦を考え、と展開していくところが面白みの一つだった。乙一ならそれをこそやりそうなものなのに、まったく中途半端にしかそこがつきつめられていない。残念だ。


2022年5月28日土曜日

『ルーム』-強い

 配信終了間近とみて、娘に声をかけると、観るという。

 観直してもやはり、主演の母子二人の演技のあまりの見事さに感嘆する。強く複雑な感情を、あまり動かない表情の時に表出する。

 そして1シーンに出てくるだけの女性警官のキャラクターのあまりの魅力にも。

 レベルの高い映画だ。 


2022年5月27日金曜日

『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』-男の子

 トム・ハンクスとサンドラ・ブロックが夫婦役なのだから堂々たるハリウッド映画で、なるほど『リトル・ダンサー』の監督なのか。長編監督作の全てがアカデミー作品賞にノミネートされているというから堂々たる大御所だ。

 こちらも『リトル・ダンサー』と同じような年頃の男の子が主人公。これがすでに琴線をふるわす。『怪物はささやく』『パーフェクト・ワールド』あたりと同様、どうにもその頃の息子がダブってしまうのだ。

 ネットで低評価している人は、この主人公の男の子が不快だと言う。なるほど、他人に対する配慮ができないとか自分のこだわりが強いとか癇性だとかいったキャラクターは、劇中でアスペルガーの境界だと説明されることで許容されるということもあるが、やはりともすれば不快でもある。

 それでも、『ペンギン・ハイウェイ』の主人公のように生意気で知的で、常に眉根をひそめつつ父親の残した謎に迫ろうとする少年の切迫感を愛おしく思わざるをえない。


 テーマとなっている9.11についてはアメリカ人が観るような感慨はない。とはいえもちろん喪失を乗り越えるドラマは普遍的なものだ。

 バランスはともかくも、彼が彼なりに周囲の人に関わっていく中で相手もまたその「人間」の部分を露わにしていくドラマの描き方はうまくて、やはり良い映画だと思った。


2022年5月23日月曜日

『エンドレス 繰り返される悪夢』-よくできたループ物

 ループ物は宿題のように見る。邦題がわかりやすくそれを示しているが、英題は『A Day』。ぴったりだと思うがそのまま日本の観客の注意をひくのは難しいか。

 韓国映画らしい、感情的な演技過剰がいくらか鼻につくが、基本的にはよくできた話だった。

 事故で娘が死ぬ場面に遭遇した主人公が、ふいに事故の2時間前に戻って目覚める。なんとか娘を救おうとするが果たせず、この2時間を繰り返す…という展開はループ物のあるある。

 だが数回それをやったところで、もう一人の男がそのループに介入してくるところで、おやっと思う。初めてだ。数人でループするなら今までもあったが、一人だと思っていたループが、途中から一人ではないとわかるパターンは。

 彼も妻をこのループの中で失くして、なんとかそれを阻止しようとしていたのだった。二人は協力して事故を回避すべく奮闘し、ようやく回避できたと思ったら…。

 と、ストーリーの意外な展開があい次ぐ。

 ループの発生する「原因」はもちろん合理的に説明されるわけではないが(最近はネイティブアメリンの呪い、というパターンをいくつか観たが)、「因縁」が明らかになる展開にも引き込まれる。

 最終的に悲劇が回避される展開の劇的さも含めて、質の高いエンタテイメントだった。

2022年5月15日日曜日

『機動警察パトレイバー the movie2』-最高

 久しぶりに帰省した娘と、十数年ぶりに観る。今まで見た中で最高の邦画として、今回も評価を落とさなかった。「戦争」が現実になっていくさまは、今のウクライナ情勢とリンクしていて、かつそれでも我々の日常が変わらない「他人事」感を反省させられる。

2022年5月2日月曜日

『特捜部Q Pからのメッセージ』-計算された救い

 昨日の1作目と本作の3作目は無料なのに、なぜか2作目は有料で、とばして観る。もしかしたら、状況が把握されていないかもしれないが、まあいい。

 1作目よりさらに面白かった。前作のような過去の怨恨に基づく犯行に比べても、本作の反宗教的確信犯の犯行はさらに恐ろしかった。宗教的信仰に対する復讐のような犯行の延長で、人を救いたいという刑事の動機もまた宗教なのだ、という論理で、繋がれた主人公の前で子供を殺す。その絶望感たるや!

 そしてなおかつ最後には救いがある。そうでなければ後味が悪さに支持できないところだった。

 よかった。


2022年5月1日日曜日

『特捜部Q 檻の中の女』-北欧ミステリー

 海外の刑事ドラマの傑作といえば古くは「第1容疑者」シリーズであり、最近では「トンネル」だ。テレビドラマが、映画よりもはるかによくできていると感じられることは山田太一以来度々あったが、輸入される海外ドラマはとにかく質が高いから、時々探して観たくなる。

 最近は『クリムゾン・リバー』のテレビ版を観たが、これはあまり面白くはなかった。質の高さは面白さを保証しない。

 で、評価の高い本作はちゃんと面白かった。北欧ミステリーといえば刑事ドラマではないが『ミレニアム』シリーズが連想される。ああいう、陰惨な事件が起こり、なんとか解決を目指す。過去の因縁が徐々に明らかになる。絶望的な状況で、最後には救われる。面白い。