『17歳の帝国』には大いに不満だったが、続く「土曜ドラマ」枠の本作は悪くなかった。『今ここにある危機とぼくの好感度について』はさらに面白かったが、あれに続いて同枠に鈴木杏が出て好演している。子役時代を知っていると応援したくなるのだが、良い演技をしていて嬉しい。
「複生者」という突飛な設定で、生やら絆やらの大切さをあらためて確認する話、ではある。そこに平野啓一郎お得意の「分人」論がからんだりして、結論についてはわかっているよ、という感じもする。
が、やはりそこは実感がそれに対してどれくらいあるかだ。鈴木杏も阿部サダヲも、随分と暗い面を持ったキャラクターで、それが「生やら絆やらの大切さ」を軽くはない「真面目な」扱いに見せている。
藤森慎吾が意外な芸達者で、うじきつよしなどよりよほど全うに役者をやっていたのに驚いた。
といって感動的というには残念ながらまだ。面白い、とも言い難い。やはり面白さがどのようにして生まれるかというのは難しい問題だ。
題名は、その命令形が誰から誰へのものかがわからないところが不穏で、最初は死亡時の記憶の「空白」なのかと思い、その後、精神的な空虚感、不満という意味かと思い、たぶんそうでもあるのだろうが、あいかわらず語り手がわからない不穏が、おそらく強迫観念のような感触を連想させるからだろうが、最後で、子供が親の記憶についての記憶を、ビデオメッセージで「満たしなさい」という意味で決着する捻りには感心した。