主演のエミリア・ジョーンズは『ゴーストランドの惨劇』の子役でがんばっていた子だなあと思っていたら、本作はアカデミー賞で作品賞を獲ってしまった。
アカデミー賞前後であれこれ情報が入っているので、設定やらストーリーやらはわかっている。で、見てみるとほとんどそのままなのだった。両親と兄が聾者の家庭で一人健常者のヒロインが、音楽の道を目指して家を出る、という話。事前の作品情報でいくらか薄かったのは、ヒロインの才能を見出す音楽の先生のキャラクター及びレッスンの様子くらい。
そして、もちろん良い映画だったのだが、何かすごいものを観たという感じにならないのはこの間の『ビューティフルマインド』に続いて、だった。ストーリーから予想される葛藤やら家族の愛情やらは無論上手く描かれている。助演男優賞を獲った、本当に聾者である父親の演技は、キャラクター造形もふくめて実にうまかった。
だが、それ以上に動揺のような感動は訪れなかった。予想の範囲内に収まってしまったのだった。感動作というふれこみに期待値が上がり過ぎたせいかもしれない。
それでも大きく心が動いた場面は二つ。一つ目は予想外に。二つ目は予想通り。
一つ目は物語の大きな筋立ての一つである音楽の授業の受講者によるコンサートで、練習してきた曲をヒロインとヒーローが歌う場面。途中から音を消したのだった。音を消すことによって、そこにいる聾者の家族の立場に観客を置く。音楽を聴けないことの喪失感と、その分、周囲の人がその音楽をどう受け止めているかの観察と想像に頭が使わされる。それはそれで物語的な感動があって新鮮だった。
二つ目は、最後のオーディションでヒロインが歌いながら、途中から家族に向けて手話で歌詞を翻訳する場面。これはまあ、この設定、筋立てからすれば当然そうだろうという展開で、それが至極真っ当に感動的だったのだった。
エミリア・ジョーンズの演技も歌も見事な映画だった。
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