原作が面白いであろう事は想像に難くないが未読なので、映画単体で。
音楽コンクールを描くということの手間はいかばかりかと思いやられる。オーケストラを用意し、その演奏の映像を様々な角度から切り取り、演奏自体と俳優による吹き替えを合わせ、編集する。そしてできあがった音楽映画は映画なのか。音楽会、コンサートのライブ映像ではいけないのか?
格闘技も、単にプレーだけを見たいわけではなく、戦う者たちの背景が見えないと充分に感動的ではあり得ない。それぞれの負けたくない思いに感情移入したときに、格闘技の観戦は見る者の感情を揺さぶる。
『セッション』も『コーダ』も、単に音楽のコンサート映像を見ているわけではない。そこにドラマを見ているから感動的でもあり得る。本作はどうなのか。
クラシックというジャンルにおけるコンクールは、単に売れる売れないという形で表れる評価とは別に、審査員に選ばれることによる不全感が拭いがたくつきまとい、さまざまな思惑が絡み合うドラマを生む。競争心と嫉妬、そして正直な賞賛。
コンクールで競い合う者たちの友情も美しいし、丁寧に細部を描いた上で豊富なインサートでイメージを複雑にする映画作りも達者だった。
それでも充分に面白い映画だったかといえばそうでもない。音楽における「天才」の描き方に疑問が残った。無垢なる天才というステロタイプ。どうなんだろ、小説ではここに十分な深みが描かれるのか。
音楽を描く小説という不可能性もある一方で、単なる音楽会を撮影した映像を超える音楽映画という困難。
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