文化祭クラス演劇は、今年度2クラス。1年生クラスは本番で観るタイミングがとれないんで、通し練習の時にトリプルキャストのうち2回を観た。これはまあ今後に期待ということで、当日の方で何とか3年生のを。約90分の長丁場だが、この公演しかない、という回を。
高羽彩という作家の『僕らの力で世界があと何回救えたか』は、題名からもう期待できる。タイムループかパラレルワールド設定に違いない。短い惹句からすると、そこに青春の喪失、的な要素もあるらしい。ますます期待に満ちている。
さて実際にどうだったかというと、期待以上だった。文句なく素晴らしかった。脚本は、物語の起伏に満ちていて、サスペンスも、人物の葛藤も十分に描き込まれてエモーショナルでもある。世のほとんどの物語には、それはないだろうというような無理な展開や描写があるものだが、それもない。無理のない言葉で、豊かな物語が紡がれていく。
そして、それを惜しみなく実現している役者陣が素晴らしい。頑張ってはいるが、惜しい、などと思う役者がいない。それどころか、演劇部でもない各生徒が、台詞回しのクリアさも自然さも感情表現も、驚くべき完成度で実現している。いや安易な形容ではなく、本当にこれは驚くべきことだ。そして驚くべきことにこれがダブルキャストだというのだ。
舞台美術はシンプルそのもの。黒い布をかけた背景に、教室の机と椅子が数脚置かれているだけ。凝った大道具もなければ転換さえない。観客の想像力で物語を補完させる。文化祭で舞台美術に手がかかるのはリスクが大きい。それだけの人手が確保できるのかも、完成度が低いとマイナスになってしまうような要請も。それなしにできる物語は文化祭向きでもあった。
そう、脚本選びは、文化祭で演劇を実行する上で決定的に重要な過程で、ここを安易にやり過ごしてしまうととても残念なことになってしまうのだが、この最初の条件を最高の形で乗り切った上で、その物語の可能性を十分に実現したクラスの力はいくら賞賛してもしたりない。
これまで経験した数多くの文化祭クラス演劇というだけでなく、演劇部やアマチュア演劇、プロの舞台まで含めても出色の、最高級のエンタテインメントだった。
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