2017年5月7日日曜日

『天国と地獄』 -犯罪捜査の過程は丸

 新幹線での身代金受け渡し場面が名高い、黒澤明作品。
 丘の上の豪邸に住む製靴会社重役の息子が誘拐され、身代金の請求の電話が犯人からかかってくる。設定を知っているという以上に、見覚えがある。観たことがあるのだろうかと考えるが、結末が思い浮かばない。
 調べてみると数年前にテレビドラマになったものを観ているのだった。鶴橋康夫演出だというのに、特に印象もない。
 さてその後、運転手の息子が間違って誘拐されたのだとわかるが、かまわず身代金が請求され、見殺しにするわけにもいかない重役は支払いに応ずる。
 重役を演ずるのは黒澤映画おなじみの三船敏郎。そういうわけですっかり立派な人という扱いになっているが、あそこは運転手が銀行から借りるというのが筋なのだから、一時的に雇い主である製菓会社重役がお金を出すにせよ、重役の手元にお金が戻らないということにはならないはずなのだが。そこに人間ドラマを設定するのは無理があると感じた。
 有名な新幹線での身代金受け渡し場面は映画の前半部で、これも特筆するほど面白いと感ずる展開でもなかった。
 題名の『天国と地獄』というのは丘の上の重役邸と犯人の住む下町の対比の比喩なのだが、そこに何かドロドロした人間ドラマが描かれているかというとそんなこともない。ラストの犯人の山崎努の演技はやはりそれなりに見応えはあったが、いかんせん、映画全体がそのドラマを支えるような細部を持っていない。 
 だが、誘拐と身代金奪取は成功してしまって、さてそこから後半部は警察の捜査の過程に重点が移って、じわじわと面白くなる。そういえば原作はエド・マクベインの「87分署シリーズ」の一編で、つまり警察の捜査チームの群像劇だ。捜査の過程も犯人の追跡も麻薬街の造形も見応えがあった。
 それでもイギリス、グラナダテレビの『第一容疑者』シリーズや横山秀夫原作の警察物に比べると大分食い足りないのだが、これも時代のせいか?

0 件のコメント:

コメントを投稿