2017年3月1日水曜日

『グエムル』 -奇妙なバランスの傑作怪獣映画

 というわけで『グエムル』で、怪獣映画ツアーはひとまず。

 10年前の映画だが、観たのはいつだろう。息子が途中で怖くて観られなくなったという記憶があるので、相当前かと思ったが、公開直後ということはなく、ビデオレンタルだったから、その息子は中学生くらいにはなっていることになる。そんなに怖い映画か?
 だがとりあえずTSUTAYAではホラー映画の棚にある。『クローバー・フィールド』はアクション映画の棚なのに。『モンスターズ』はSFの棚だ。

 最初にこの映画を観たときに何よりびっくりして、かつ好きな場面は、怪物に連れ去られた中学生の娘を捜す家族が、捜索に疲れて川縁の売店兼住居に戻って、4人でカップラーメンを食べるシーンだ。
 疲れ切って、口も聞かずにラーメンをすする父親の後ろから、誰かの腕が見えたと思ったら、行方不明の娘が唐突に、だがおもむろに姿を現して、テーブルの食べ物を漁る。父親から始まって、祖父、叔父・叔母が次々と彼女に何かを食べさせる。
 トーンが変わったとかいうこともないから、実はここにいました、という展開なのか、幽霊だとかいった表現なのかもわからない。皆、視線も合わさず言葉も発せずに黙々と食事を続けることに違和感を抱いたまま見守っていると、場面が変わって、彼女は怪物の巣らしき下水溝のようなところで目を覚ます。
 やっぱり。

 観直すと、相変わらずとても変な映画なのだった。
 10年前としてはなかなかによくできたCGの怪物が襲ってくるパニック描写は緊迫感も充分だし、怪物の巣らしき下水溝からの娘の脱出作戦は、起伏に富んだ脚本の巧みさとサスペンスフルな演出が見事だし、家族愛が妙に切なく描かれているかと思えば、その家族の駄目さ加減は、ほとんどコメディのようだ。基本的には駄目な家族が、娘を救おうとするヒロイックな活躍を見せるクライマックスに拍手を送るべきなのだろうが、最も感動的なのは、娘の叔母を演ずるペ・ドゥナが怪物の巣のある場所を目指して橋の下を疾走するいくつかのカットをつないだシークエンスだ。
 音楽もなかなかなのだが、この場面のカットはどれも恐ろしく美しい。巨大な橋桁の鉄骨や、広い川幅を豊かに流れる水の量、闇を照らす照明、薄明るくなっていく川縁の空気が、威容ともいえる迫力でありつつもどこか懐かしい気もする印象的な光景の中を、人目を避けて、夜、朝まだき橋桁の下、川縁の草むらを疾走するペ・ドゥナの息苦しいほどの必死さが切ない。

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