2018年8月8日水曜日

『オデッセイ』-不足のない娯楽作

 嵐に見舞われた火星探索隊が火星を緊急脱出する際に事故に遭って死亡したと思われて一人だけ火星に置き去りにされた主人公が火星で生き延びて救出されるまでの2年近い日々を描く。
 食糧の確保、脱出計画と、具体的な方策を試行錯誤して生き延びる様子はもちろん見ていて興味深い。だが、その成功と失敗を分ける変数がどれくらいなのかがわからないから、実際のところそれがどれほど大変なのかはわからない。たぶんありえないほどうまく行き過ぎている(そしてたぶん丁度良く、死なない程度に主人公に試練を与えている)んだろうと思う。
 それよりも映画の魅力は主人公の前向きな人物造型だ。困難な状況に絶望することなく現実な解決策を探っていくというだけではなく、ユーモアを忘れない。ここには、サバイバルの業務と並行して日課として映像で自分を記録するという設定が生きている。原作でもそうなのだろうか。映画では実際にマット・デイモンがカメラに向かって喋るし、それをボーン・シリーズの平田広明の二枚目声ではなく、神奈延年の軽い声で吹き替えているのが、能天気なキャラクターを造型していて良かった。
 もう一つは並行して描かれる地上の救出作戦だ。地球に帰還中の火星探査チームとともに、主人公とどうやって通信し、どうやって救出するか、地上チーム内でのぶつかり合いや駆け引き、そして協力が描かれる群像劇が、物語に厚みを与えている。
 設定に対して過不足ない起伏をつけた、巧みなストーリーテリングに人物描写で、最後に救出作戦が成功するカタルシスまで、間然するところのない娯楽作といっていい。
 だが、そう感じさせるほどの丁度良い負荷も含めて、何か観る者を揺り動かすほどの痛みを与えることもない、まさに「娯楽作」ではあるのだった。

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