2021年9月12日日曜日

『イニシエーション・ラブ』-ドンデン返しだけが

 書店で宣伝されている時に興味を惹かれていたがきっかけがなく、今回は『屍人荘の殺人』に続けて、ミステリーの邦画という括りで。

 始まった途端、主人公が連れ合いと同じ歳、同じ大学の大学生でのけぞる。どういうわけでその時代の中途半端な国立大学生に主人公を設定するのかと思ったら、まあバブル期の新入社員で、地方大学から東京に出て、ぎりぎり恋人と会うために週末に地元に帰れるくらい、という設定の必要らしきものはあるのだが、まあそれが面白さにつながるかというとそんなことはない。

 そう、面白くない。とにかくつまらなくてどうしたものかと思いつつ見続ける。宣伝文句の「ラスト五分のドンデン返し」を見届けるために。

 なるほど、その時が訪れると、それなりの満足はあるものの、それだけでそこまでの退屈さを許す気にはなれず、堤幸彦は近いところで『十二人の死にたい子どもたち』以来の低評価を安定させている。


 そのドンデン返しだが、映画と小説の枠を超えてトリックを成立させる力業はちょっと感心した。

 小説では、描写によってその人物のイメージを同定するから、違う人物のように描かれている二人が、実は同じ人物でした、というようなトリックをしかけることは容易だが、それは実写映画では無理だ。メイクでごまかすのには無理がある。同じ役者であることを観客に悟らせないのは難しい。

 一方で同一人物のように描かれながら、実は別人でしたというようなトリックも、実写では難しい。双子だとか多重人格だったとかいう別な設定が必要になる。

 しかし堤演出では、全然別の役者であることは明白で、しかしそれは同じ人物を演じているということなんだな、という堤映画的お約束だという了解を観客に強引に与えてしまい、それ自体がトリックを成立させる。


 そういえば堤幸彦でトリックと言えば『TRICK』だが、あの脚本は『屍人荘の殺人』の脚本を書いている蒔田光治なのだった。思いがけない連続。

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