2023年5月1日月曜日

『プリズン・エクスペリメント』-看守への共感

 スタンフォード監獄実験の映画化と言えば、見るのは『es』『エクスペリメント』に続いて三つ目だ。もう、その興味で見る。

 俳優陣の演技は悪くない。記録にも忠実に作られているようだ。実験を指揮した教授も実名だ。『エクスペリメント』は、実験を主催する大学側の視点が全く描かれなかったから、それが徒に扇情的なばかりで現実離れした話になっていたが、そういう意味ではリアルに描こうとしているのだろう。

 それでも、現在のポリコレ社会の常識に染まっているせいか、どうにも現実離れしているように見えてしまう。途中で、これはまずいだろ、となるはずではないか、と思ってしまう。これはまったく「まさか」と思えるようなことが現実に起こるという点が焦点の映画のはずだから、その「いかにも起こりそうな」感じを観客に抱かせなくてはならないというのが最大の使命のはずだ。誰もがやめられなくなっていく…という傾向に染まっていくその微妙さが。

 それなのに、いきなり看守がノリノリなのは、まああるかもしれないが、あんなに嗜虐的になっていくのはやはり不自然に思える。例えば「看守として秩序を護る」という使命が実験の目的として与えられ、それに対して過剰適応しているうちに、現実社会を引きずっている囚人たちの反抗的な態度に怒りを覚えてしまう、とかいうことなら「わかる」かもしれない。だがいきなりあんなに嗜虐的に振る舞う人たちには共感できない。

 看守に共感できなくてはこの映画は失敗なはずなのに。

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