2024年10月6日日曜日

『Fall』-脚本作りのお手本

 よくできていた。面白かった。そして怖かった。ホラーでもこの怖さはめったにない。とにかく高さが。 

 地上600m以上ある鉄塔の上に登る動画配信者が、梯子の崩落で頂上にとり残されるSSS。設定は海底に残される『47m』であり、スキー場のゴンドラが停まる『フローズン』であり、沖合の岩場に残される『ロスト・バケーション』であり、岩に手を挟まれて動けない『127時間』であり。


 設定がシンプルならあとはアイデアと演出。これがもう申し分なくよくできていた。この窮地でどんなことがおこりうるか。どんな手段を試行錯誤するか。

 確かにクライミングの基礎として支点の確保を怠るやら、手を取り合うことで相手を引き上げるなど、無理な描写もある。

 とはいえ、真っ当な頭の使い方と、冷静で強い意志を保とうと努力する登場人物が描かれないとウンザリしてしまうので、その点でもとても好印象。出来の悪いホラーはバカを登場させてパニックを起こさせることが怖さを演出しようとする。その点、本作の二人はとても頑張った。その健闘こそが恐怖と焦燥を引き立てるし、救助の多幸感を強めてくれる。


 そして途中で触れた要素が、全て後で活かされるという、ストーリー作りのお手本のような見事な脚本だった。

 その中でも、とりわけ大がかりな仕掛けの一つには大いに感心した。

 恐ろしいことが起こると、実は夢でした、という演出はありふれている。だがその逆をいく。それを比較的長い叙述トリックとして見せ、クライマックスで真相が明かされた後に、それを解決のための手段に使い回す。その残酷さもカタルシスも充分に物語の強さを保証している。

 良い映画だった。


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