2016年7月13日水曜日

『死霊館』 -王道ホラーの佳品

 「しりょうかん」で変換すると、当然のことながら「資料館」になるわけだ。この邦題はなんとかならんかと思うが、原題の「The Conjuring」ではなんのことやらわからんし。
 それでも『ソウ』のジェームズ・ワン監督作というので見てみたのだった。
 内容的には、どうにもありふれた幽霊屋敷物であり、どこにも題名をつけるうえで手がかりになるような特徴がない。『死霊館』もむべなるかな。
 主人公の一人、パトリック・ウィルソンは『レイクサイド・テラス』で見たばかりだし、子役の一人、ジョーイ・キングに見覚えがあると思ったら『ホワイトハウス・ダウン』で大活躍した女の子だった。主人公とも言えるヴェラ・ファーミガは去年『マイレージ、マイライフ』で、最近『ザ・クリミナル 合衆国の陰謀』でも見た女優だ。
 俳優が豪華な割には、映画全体は低予算で作られている感じだが、それはホラー映画にとってまるで不利な条件ではない。ホラーは演出とアイデアがすべて。
 アイデアの方は『ソウ』のような切れ味はなかったが、演出は悪くない。実に怖い。しかもスプラッターのような残酷趣味は伴わないところが好感がもてる。
 娘と観ながら、これは良いという時の基準は「奥ゆかし」だった。扉の陰が怖いのだ。反対に、これはちょっと、と思うときの印象を表現するなら「あさまし」か「むくつけし」だ。悪霊が、いかにも怖ろしげな形相で害意を露わにした姿を画面に晒してしまうのは、下品で無風流で無粋で見苦しい。
 洗濯物を取り込んでいると、にわかに雲がたちこめて辺りが暗くなり、風が強くなって、とりこもうと近づいたシーツが激しい風で吹き飛ばされる。直後、主人公の脇で何かに巻き付くように静止して、そのシーツの中に何者かの肉体の存在を感じさせたかと思うと、さらに吹き飛ばされて屋敷の窓に貼り付く。さらにそれが飛ばされた後で、窓の中で動く気配。こういう演出こそ粋で奥ゆかしいのだ。
 ということで後半は、展開が「エクソシスト」そのままになり、なおかつ結局、悪魔払いよりも家族を思う母の愛が悪霊に勝つという結末にがっかりしつつも、ホラー映画としては十分に楽しめた。

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