『A Song Is Born』という原題は、日本人にもわかる英語なのに、これも映画の華やかなイメージを表したいからという意図なんだろうが、『ヒット・パレード』という邦題がつけられている。あくまで『ヒット・パレード』であって『Hit Parade』ではない。
こちらはそれが当時の「ヒット」曲なのかどうかは判断できないから、次々繰り出される華やかな曲たちが邦題にふさわしいかどうかは措いておくしかないが、ともあれ音楽的には華やかというか、実に豊かである。
音楽事典の編纂をしているクラシックの専門家たちが、当時のポピュラー音楽、ジャズに触れていく過程が、教授の一人とジャズ歌手の恋物語とともに語られる。
監督のハワード・ホークスは他の作品を見ていないが、脚本のビリー・ワイルダーは最近見た『昼下がりの情事』にも敬服した(こちらでは監督も)。この頃のハリウッド映画のすごいこと。世界をまるごと作る手間が、想像も及ばないほどにかかっているような印象が、画面の隅々から感じられる。脚本はよく練られているし、演出も実に気配りが効いているし、セットも豪華だ。
恋物語としては、ヒロインの心変わりが急で違和感があるが、それはつまりリアリズムではなく「ロマンチック・コメディ」として見るべきだということなんだろう。それならそれで多幸感のある世界が見事に造形されている。
そしてこの映画ではなんといっても音楽が楽しい。戦後すぐのアメリカのジャズ事情は、これほど豊かだったのだ。俳優としても教授役の一人を演じているベニー・グッドマンや、実名で登場するルイ・アームストロングやトミー・ドーシーなどの錚々たるメンバーのセッションの楽しさは、画面に登場しない伴奏で歌うミュージカルと違って、画面の中の生演奏の豊かさだ。しかも「譜面なんかない」(劇中の台詞)、まっとうなジャズの楽しさだ。
それとともに、そうしたジャム・セッションの楽しさだけでなく、音楽事典編纂の設定から導かれて、ジャズの歴史をたどるくだりも楽しかった。史的な正当性がどの程度保証されているのかは測りかねるが、変遷の果てにあのジャズの豊かさがあるのかと、展開毎にハッとしたり、あらためてしみじみ感じ入ったり。
ヒロインのヴァージニア・メイヨは、たとえばオードリー・ヘップバーンのような、万人を否応なく引きつけてしまうような魅力のあるキャラクターでも美貌でもなかったが(吹き替えかもしれないが)歌声は実に魅力的だった。
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