ダスティン・ホフマンにロイ・シャイダー、ローレンス・オリビエと名優を揃え、アカデミー脚本家の手になる堂々たるサスペンス映画。
ナチス・ドイツから戦後闇に流れたダイアモンドの行方をめぐって、メンゲレをモデルにしたナチ党員と、アメリカの諜報機関(のようなもの?)の双方に狙われる、不幸な大学院生をダスティン・ホフマンが演じている。完全な巻き込まれ型の犯罪もので、素人の主人公にはどんな対抗手段があるかというと、題名にある「マラソン」という特技のみ。いや、それが対抗手段というわけではないか。題名からして、それを使って闘うのかと思っていたが、期待したほどそれが劇的に使われるわけではなかった。とりあえず敵の手を逃れるくだりで、さすがに「走って逃げる」という有効利用はなされたのだったが。
とすると、題名にまで取り上げられるマラソンが、何か別の象徴的な意味を持っているのかと考えてみたが、わからない。アベベが、映像や主人公の部屋のポスターで観客に印象づけられるのだが、それがなんなのか。走ることに何か哲学的な意味やら意志の強さなどが象徴されるというならわかるが、結局主人公はそういう人物としては描かれているようには見えない。
恋人役の存在もなんとも落としどころが見つからない。実は敵の関係者でしたという「実は」要員ではあるのだが、そのまま裏切るでも、敵を裏切って主人公に味方するでもなく、中途半端に死ぬだけなのは、どういう感情を観客に起こさせたいのかよくわからない。
という不全感はあるものの、総じて演出は驚くほど上手く、サスペンス映画としての質はとても高い。面白かった。
冒頭近くのカーチェイスも、トンネルの中でデモ隊の自転車に囲まれ、ひやひやしながらトンネルを出るところで背景に凱旋門が見えるカット、パリのオペラ座の壮麗な建築と闇の深さ。暗闇からサッカーボールがこちらに跳んでくるカットは『牯嶺街少年殺人事件』ではないか。あれは、これを真似したのか!
ロイ・シャイダーが暗殺者に襲われるシーンと、最後近くの銃撃シーンは、スローで観直すと、恐ろしく丁寧に殺陣が構成されていて、それが見事な編集で完璧に組み上げられている。
物語に不全感があって、全面的に拍手喝采というわけにはいかなかったが、本当に良くできた映画だった。
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