2021年11月2日火曜日

『箪笥』-腑に落ちない

 韓流ホラーとして評価の高い本作は、発表当時から興味を持ってはいた。娘が一緒に観るというのを契機にようやく。

 始まってみると、その演出や編集のテンポの、余りの遅さに耐え難いと始終思わされる。カットが変わってからアクションを起こすまで、なぜ何も変化の起こらない状態を、あんなに長く映しているのかとイライラしてしまうのは、Youtubeやテレビに慣れた悪い癖か。

 それでいてあまりの説明不足に、話が何やらよくわからない。速いテンポで情報を詰め込むとわからなくなるからテンポが遅いのかいうと、別に情報のない、とにかく冗長な間がやたらと多いというだけに感ずる。


 評価されるのはたぶん、古めかしい画面に映る空気感の懐かしさが、美しい音楽で一層引き立つところと、2回にわたる大きなドンデン返しに驚かされるところではある。真相がわかって切ない、ということもある。それは確かに良い。

 が、伏線が十分に観客に理解されずに、まるで再鑑賞を前提にしているようなのはいかがなものか。


 根本的な問題として、「ホラー」として売り出されているところに、サイコサスペンスを交ぜているところの中途半端さをどうしたものか、と思ってしまう。

 多重人格とか統合失調とかいう真相を用意して伏線を回収しているのに、映画は幽霊の存在を否定しないから、どうもスッキリと納得できない。不思議な出来事に対して、ある時は妄想で、ある時は幽霊だったりする中途半端さが落ち着かない。全部妄想で解決するように作ってしまえば良かったのに、と思う。貞子的ホラー描写もすべて妄想で説明してしまえば。

 そうするとまた別の問題もあって、妄想の人物やら幽霊やらが、それはそれで「生きている」ような芝居をしてしまうのに違和感がある。この間の『ババドック』は、そのような存在が出てきたときは、オカルト現象でも妄想でもいいような描写になっていた。だからホラーとサイコサスペンスが同居できていた。

 一方で本作では真相が明かされてから、あれは妄想だったとか幽霊だったとか言われても、ああなるほどと思えない。普通に物語に登場している人間としての演技/演出をしてしまうと、そういう不全感が残る。

 もうひとつ。箪笥の下敷きで死ぬというそもそもの悲劇と、死にそうになっているのを助けないというあまりの非人間的な振る舞いが特別な悪人として描かれないこと、真相を成立させるこの二つの展開のあまりの不自然さに、これも何か妄想の一部なんだろうかとか思っているとどうもそうではなさそうで、結局腑に落ちないで終わってしまう。

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