2022年3月16日水曜日

『寝ても覚めても』-わからない

 『スパイの妻』の脚本の濱口竜介監督作。しかも初メジャー作。

 『ハッピーアワー』があれほどの作品だったのだから、という期待はあるし、識者の評価もすこぶる高い。

 だがアマゾンレビューでは酷評も多い。それは主演男優女優の現実の振る舞いに対する非難が重なってもいるのだが、単に演技を指してもいる。

 とはいえネットの酷評のように東出が下手だとは思えない。二役の片方は確かに不自然な演技ではあるが、それは不自然なキャラクター設定だからであって、現実的なキャラクターの方はすこぶるうまい。

 一方の唐田えりかが下手に見えるのは、やはりそもそも不自然なキャラクターだからでもある。とはいえ、たぶん上手くもない。

 だがそれはいい。

 だが問題は、物語が一見したところとても単純に見え、かつどうもそれだけではないらしいと思える、「それ以上」の部分がよくわからないと感じられるという点だ。

 非日常的な男に惹かれることと、結局は日常的な男に戻ってくる、という展開はわかりやすい。

 だがなぜヒロインが一度は日常系から非日常系に舞い戻ってしまうのか、そしてなぜ日常系に戻るのかがわからない。わかるべきなのかどうかもわからない。

 最後に日常系に戻る転換点となる、宮城県での堤防を登って海を見るシーンがどうにも心に響いてしまう理屈がまたわからない。異様に巨大な堤防の向こうがどうにも彼岸を感じさせるのだが、カメラが切り替わってヒロインの顔を正面からとらえる。表情はない。この顔にまた動揺する。それがなぜそうなるのかがわからないのだが、それを撮ろうと考えた監督の発想がまたわからない。

 地震の後のいくつかの小さなエピソードとも言えない描写とか、序盤の登場人物渡辺大知の筋萎縮性側索硬化症(ALS)発症とか、「わからない」がどうも強烈な物語性を含む映画ではある。

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