2022年3月4日金曜日

『凶悪』-批評的ではなく

 どんどん見られる。刺激的で観ていて高揚感がある。

 「凶悪」な犯罪が描かれる。それを追う週刊誌記者の調査にしたがって明らかになっていく事件が、再現ビデオのように挿入される。

 主人公の記者が事件に取り込まれていく過程が、観客がこの映画に取り込まれていくこととシンクロしていく。

 連続殺人事件を追う記者が事件にのめり込むと言えば『ゾディアック』だ。だがあれほどのレベルでは、残念ながらない。

 凶悪事件に対する義憤のように本人が意識しているのを、妻に「面白がっていたんでしょ」と喝破される辛辣さは皮肉がきいていて、まさしくこの映画を面白がる観客自身に向けられたように感じるが、といって批評的な面白さがあるというほどではない。

 死刑囚に、俺の死刑を最も願っているのはあんただと指摘されるラストシーンは、「凶悪」の対象が逆転するのを狙っているということはわかる。深淵を覗き込む者は深淵からも見返されている、というやつだろうが、そんな批評性も観念的だ。

 記者が、認知症の母親の世話を妻に任せて調査にのめりこむくらいことでは殺人犯たちの凶悪さにはまるで及ばないし、その母親を介護施設に入れる解決は、観客を安堵させる一方で、やはり批評性は薄れてしまう。そもそもその前に、妻に責められながらも母親の介護を放棄するといった描写がリアリティの水準を下げている。

 というわけで、批評的というよりも上記のように「面白い」という見方でちょうど良い映画だった。

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