amazonプライムビデオで再三宣伝が浮上するので気にはなっていた。主人公の30歳ニートがバイトを始めた風呂屋が、実は夜になるとヤクザの人殺しの場所として利用されていて…という設定は、どうなるのか気になる。
観始めると、役者が実に達者で観られる。演出の確かさでもある。場面場面がいちいち映画的というかドラマ的というか、描写として質が高い。ヤクザも風呂屋主人も同僚も、良い人なのか恐い人なのか、その「どちらにころぶかわからない」人物像が実に巧く描かれていて、観ていて集中力が殺がれない。
そしてそれらの役者すべてが、聞いたことも観たこともない人ばかりなのは『カメラを止めるな』以来の驚きで、監督も長編デビュー作だというのも驚く。といってインディーな邦画にありがちな、無駄に観念的な長回しもない。ドラマがちゃんと展開していく。
アマプラでのジャンルは「サスペンス・コメディ」となっているから、恐いばかりではない。オフビートなユーモアも盛り込まれている。
とはいえ物語としては、ファンタジーと宣言していないのにまるで現実離れしたお花畑のハッピーエンドになったのはびっくりした。ここに鼻白んてしまえばネットの低評価もむべなるかな。ヤクザに脅されている状況を打破するために殺してしまおうというのだが、現実にはそのヤクザをとりまく利害の関連があって、一人だけ殺してどうにかなるものではなかろう。まして警察の捜査がどうして及ばないのかがまったく説明されない。
それでもだ、観ている途中途中の面白さの方が勝っている。
とりわけ風呂屋のバイト同僚で、実は殺し屋の松本君のキャラクターが実に魅力的だった。ためらいなく人を殺す冷徹さと周囲の者に対する律儀さが同居していて、飄々とした物腰。演じた磯崎義知という役者は実に素晴らしく、今後彼の仕事を発見するのが楽しみになった。