2023年4月2日日曜日

『チロルの挽歌』-皆を集めて

 偶然にNHKのBS4Kで再放送されることを知って、30年ぶりに観る。

 最近放送されていた『世界サブカルチャー史 欲望の系譜」の日本編でヤクザ映画がとりあげられていて、それらのヤクザ映画はまるで観ていないが、そこで各時代のスターだった鶴田浩二・高倉健・菅原文太は、筆者にとっては山田太一ドラマの主人公として憧れの対象であり、確実に大人の男像のお手本として筆者の一部になっている。それらのドラマのうち、鶴田浩二の『男たちの旅路』、菅原文太の『獅子の時代』は、当時の放送より後に、再放送やディスクで観直すこともあったのだが、高倉健の本作は放送以来だ。

 『獅子の時代』のヒロインでもあった大原麗子はこの頃40代だが、はっきりと可愛いといっていい。同時に夫から自立しようとする女性像を体現してもいて、今回調べてみて、本人が本作を自身の代表作だと考えていたのだと知ったのは感慨深かった。

 夫婦や家族の問題からバブル崩壊後の地方の活性化の問題まで、あれこれと「問題」をとりあげてその難しさを提示する山田節はここでも冴えている。

 ストーリーも具体的な場面も全く覚えていなかったのだが、今見ると、最後にみんなが集まって話し合う展開も、思いもかけない無茶な決着に落ち着く結末も、ああこの頃から既に晩年の山田太一のパターンに向けて形が整えられているのかと思ったが、考えてみればそれ以前に70年代や80年代でも、最後にみんなが集まるパターンは毎度のことだったっけ。結局「問題」に対して登場人物がその人間関係全体でどう向き合うかを決着させなければならないのだ。そう思えばこの、ある意味でミステリーにおける「名探偵皆を集めてさてと言い」のようなクライマックスは必要な展開なのだろう。

 同時に、晩年では結末のファンタジー展開に山田太一の老いを見るような気もしていたのだが、本作が既にそれなのだった。ここで白けてしまうか、それもありとみるかは紙一重で、演出次第でもある。本作では余韻のある落としどころとして、その後の現実の方の奇妙な決着を救っているような感じだった。

 それにしてもやはり観るべき価値のあるドラマをこんなふうに作り続けていた山田太一には敬服。

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