2023年4月2日日曜日

『老いてなお花となる』-役者魂

 俳優・織本順吉の晩年を娘が追ったドキュメンタリー。死の直前の2年間を3本の番組にまとめたものだが、終わりまでを見通して3本まとめて作られたものではなく、1本ずつ順にまとめたものが放送され、評価されて2本目3本目が制作されたものだ。以前に2が放送されている最中に偶然観て、その後3を観て、今回まとめて再放送されたので1から通して観た。

 通して観ると、3年ほどの間に急激に老いていく変化がすさまじい。肉体だけでなく言動においても老醜と言って姿が映されていくのだが、なぜ娘は父のそうした姿を撮るのかという疑問と、なぜ父はそうした姿を撮らせ続けるのかという疑問に引っ張られて見続ける。3まで観て、娘の最初の動機が、家庭を顧みなかった父への復讐であったことが明かされるのだが、父の動機は直接は語られない。だが2の中で1を父親本人が観て、娘にそのドキュメントとしての価値を評価する場面がある。そして3では同じく2を病床で観て、すごいドキュメントだと告げ、娘に感謝するのだ。

 なるほど。カメラで撮られ、作品の中で生きることにおいて、映画もテレビドラマもドキュメント作品も違いはないのだ。織本順吉はそこまで全身全霊で役者だったのだ。老いて、ドラマの仕事がなくなり、生身の身体で老醜をさらしてさえ、そうして作品の一部になることが彼にとって喜びだったのだと、三つの番組を通して観て、腑に落ちた。

 恐るべき役者魂。

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