2024年8月15日木曜日

『Pearl』『X』-閉塞感

 とにかくホラーを観たくて、アマプラのリコメンドで☆4つあるものを、何の事前情報もなく。

 画面のつくりは映画的にすこぶる質が高い。トウモロコシ畑の向こうに案山子が立っている広い画角の画面などに漂う不穏な空気が良い。案山子がかけられている竿(十字架のような)にヒロインが上っていって、案山子と向き合う画も、どうしてそれを思いついたのかわからないが、画面に表れると不穏な一枚絵なのだ。タイ・ウェストという監督、なかなかただ者ではない。

 1918のアメリカの田舎町が舞台という特殊性が何のためなのかと思っていると、ヒロインの閉塞感を用意するためなのだとわかってくる(だが後からそれはちょっと違う事情があったのだとわかる。先に80年代を舞台にした映画が作られていて、その主人公の前日譚だったのだ)。

 どのあたりがホラーなのかと思っていると、そのうちサイコ・サスペンスなのだとわかる。ヒロインの狂気が怖いのだと。主演のミア・ゴスの、微妙な美人さ加減が絶妙で、それなりに可愛いとも言えるからスターになることを夢見ることが観客にとって許されるが、やさぐれた感じはサイコな怖さへつながっていくのに説得力もある。

 とりわけ、最後のシーンで、戦地から帰った夫にきつい化粧で笑いかける笑顔が、ストップモーションではなくそのままアップで映されたまま、スタッフロールが流れる。3分余り瞬きもせずに笑い続けるヒロインは、瞬きもしないからか涙を流しはじめるが、そのまま引きつった笑いを映し続ける。

 ここが、ブラックな笑いを伴いつつ一番怖い。


 全日譚の『X』は跳ばし跳ばし。『Pearl』が持っている絶望感や閉塞感のような独特の味わいはない。シンプルで気色の悪いホラー。


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