2015年5月16日土曜日

『64 ロクヨン』(横山秀夫)

 NHKの「土曜ドラマ」、『64』がすごい。ちょっと驚くほどの出来に思うところあって調べてみると、はたして『クライマーズ・ハイ』の脚本、演出コンビなのだった。やっぱり。大森寿美男脚本に井上剛演出。ついでに音楽は「あまちゃん」でブレークした大友良英ってところも共通。って、あれ、10年前なの!? もう!
 『クライマーズ・ハイ』は原作が先で、後からドラマを観て、その出来にびっくりした。さらに映画も観たのだが、テレビドラマ版は原田真人の映画版に比べてもまったく遜色ないのだった。さすがに原作の情報量は詰め込めないから、やはりそのドラマの重層性は小説には及ばないが、エッセンスは充分に伝わるだけの緻密な演出がされていた。演出が優れていると俳優の演技もそれに見合う水準に引き上げられる。いつも素晴らしい佐藤浩市も岸部一徳も、とりわけ素晴らしかった。

 で、『64』だ。ここでもピエール瀧が、あの電気グルーブのお笑い担当の顔とは全く別人の「鬼瓦」を見事に演じている。劇中で「鬼瓦」と呼ばれるに彼以上にふさわしい配役を見つけることはもはや不可能にさえ思える(映画版では佐藤浩市がやるというのだが、「鬼瓦」にはどうか)。
 むろん役者の演技だけではない。画面の隅々まで演出が行き渡っていて、そこにいる複数の役者が同時並列的に重要な情報を演じている。カットのテンポといい、カメラの切り替えといい、編集も見事で、画面から伝わってくる緊張感がすごい。

 で、いきおいに乗って原作を図書室で借りて、三日で読了した。休日を費やしての強行軍。「第三の時効」も「クライマーズ・ハイ」も、かつて読んだ小説の最高水準だったが、むろん「64」もその期待を全く裏切らない。組織における存在の有り様を問う重厚な人間ドラマとしてはむろん「クライマーズ・ハイ」「半落ち」にひけをとらないし、伏線を張っておいてそれを回収するミステリーとして成立しているところは「第三の時効」並み、つまりこれまで読んだ横山作品としても、単にかつて読んだ小説としても最高の作品の一つだった。
 あらためてドラマの『64』の続きを観てみると、さすがに原作で緻密に構築されているドラマは、全5時間のドラマでさえ省略されている。だが小説を読みながら、登場人物はすっかりドラマのキャストでイメージされていたのだった。

 ところで大友良英の音楽は「あまちゃん」のテーマからは想像できないほど美しいのだが、演出の井上剛は「あまちゃん」の演出でもあるのだった。この重厚な演出もまた「あまちゃん」からは想像できない。そしてピエール瀧もまた「あまちゃん」レギュラーだ。「あまちゃん」でも寡黙な男を演じていたが、あれは電気グルーブのピエールが演じても無理のない、裏にコミカルな味わいを秘めた役柄でもあった。が『64』の三上の重厚なこと。
 ついでに「あまちゃん」でヒロインの父を演じた尾美としのりと、彼の若い頃を演じた森岡龍が、『64』でも重要な役を演じている。森岡龍は『見えないほどの遠くの空を』で覚えたと思ったら、あちこちに出ているのだった。
 こんなところで「あまちゃん」関係者がつながってるとは(でんでんもちょっと出てたな)。

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