2017年8月11日金曜日

『クライムダウン』 -山岳風景の美しいサスペンス映画

 題名は「下山」くらいの意味なんだろうが、これがまたしても邦題。原題は「A Lonely Place to Die」というのだが、そのままでいいじゃん。サスペンス映画であることはその方がわかるのに。
 さてまたしても「拾い物」狙いなのだが、これは良かった。
 登山パーティーが、山中に生き埋めにされている少女を発見して保護すると、謎の暗殺者に襲われて一人ずつ殺されていく。
 冒頭から前半部全体に、山岳や渓谷の風景が恐ろしく良く撮れてる。ふんだんな空撮はドローン撮影で安価になったからか、低予算映画にスケール感を与えつつ、山岳の高低差を感じさせて、既にサスペンスフル。森の中も、木々の与える遠近感がいちいち絵画のようだ。
 もちろんそれだけではなく、本筋のサスペンスの方も申し分ない。とりわけ撮影が。
 崖の途中で、上から下りてくる仲間を待っていると、ロープを何者かに切られて落下する仲間が、主人公の近くを落ちていくのを同一フレームに入れる場面とか、襲撃者から逃げる副主人公が山の斜面を転げ落ちるのを複数カットをつないだ編集で見せる場面とか、映画として実に芸のある撮り方をしていると思う。
 イギリス映画というのは、ハリウッド映画とヨーロッパ映画の中間的な味わいが「ちゃんと」ある。不思議なものだ。

 もちろんネット上の評判のように難もある。どういう設定かわからないから、ホラーなのかスリラーなのかと思ってみていると、思いのほか襲撃者が姿を現すのが早いように思えてちょっとがっかりする。一応それでも、いったんは「これが襲撃者たち?」と思わせておいたのが単なる密猟者で、それらをあっさり殺すのが本編にかかわる襲撃者たち、というような捻り方をするのだが。
 あるいは山で話を完結させればいいのに、半ば過ぎで麓の村に下りてしまって後は街中の追いかけっこになる。そこからは新味がなくなるのはいかんともしがたく、山で話を終えなかった脚本の構成が惜しまれる。山ならば主人公に、そうしたアドバンテージを与えて、それゆえの逆転劇を描けたのに。
 とまれ、先の展開を読ませないストーリーテリングは十分にサスペンスフルだった。ええっ! ここで仲間を殺しちゃうの? といった唐突さも、もったいないとはいえ、下手にべたべたしないところにスピード感もあって。

 主人公のメリッサ・ジョージという女優は、よく動くし演ずるし、良い女優だなあと思っていると、あれっ、思い入れ深い『トライアングル』の主演女優なのだった。ここでも思いがけない佳品に出ているか。

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