2018年7月26日木曜日

『ソイレント・グリーン』-暗い未来の映画って大好き

 坂本真綾の「ピース」の冒頭の歌詞「暗い未来の映画って大好き」は多くの人にとって『ブレイド・ランナー』をイメージさせるんだろうが、我々の世代にとっては『ソイレント・グリーン』なのだろうと信じている。繰り返し再放送されたから、ビデオのない時代に、複数回見た記憶があり、かついくつかの場面はかなり印象的だった。小学生の時に、原作小説を探して読んだことさえある。映画に比べて単調で面白くなかったような気がするが、今読めば違う味わいを感じられるんだろうか。
 70年代の「暗い未来」観は、こういう風にエネルギー不足に自然の破壊、人口増加が重なって住環境が悪化している都市のイメージだった。
 食糧難から、実は人々が食べているビスケットのような食べ物は人間の死骸から作られていたのだったという結末は、初見でこそ衝撃もあったのかもしれないが、その後はすっかり陳腐化した。カロリーメイトが発売された時に『ソイレント・グリーン』を思い出したのは筆者だけではなかったんじゃなかろうか。もちろんソイレント・グリーンが既に宇宙食などのイメージから発想されているんだろうし、カロリーメイトもまたそうした宇宙食から発想されているんだろうから、子供心に怪しいイメージを抱いたわけではないのだが、その食物としての貧しさにやはり共通した印象があるのも当然なのだろう。

 さて、数十年ぶりに見直すと、そもそも主演がチャールトン・ヘストンで、これも我々の未来観に大いなる影響を及ぼした『猿の惑星』の主演男優と同じ人だなどということは子供には意識されていなかったから、改めて感慨深く思われる。
 だがやっぱり印象的ないくつかの場面はそのままあるのだった。
 主人公が手に入れた自然の食材で同居人とささやかな晩餐を開くシーンは、カロリーメイト的な栄養補給とは違った食事の喜びを見事に感じさせた。
 主人公の同居人が希望者を安楽死させる施設の中で観る、かつての自然環境を映す映像とバックに流れるベートーベン「田園」は自然の風景やら音楽やらが人間にとって価値あるものであることを記号としてではなく、実感として感じさせた。
 それから、子供の頃にはわからなかった面白さもある。
 「家具」とか「本」とか名付けられた職業というか階級というか身分というか、そのような人権の設定がされている。そうすると「起重機」とか「望遠鏡」とかいう身分もあるんだろうか。人権のありかたが社会によって違うなどという相対的な見方は子供にはできなかった。
 それから、暴動の鎮圧のために駆り出される重機が、単なるショベルカーだったり、安楽死させた死骸を回収して加工工場へ運搬する車が、単なるごみ収集車だったりするのは、人間をモノとして扱っていることをストレートに表しているのだった。もちろん出来合いの車を使った方が撮影に金がかからない便宜のためだとしても。
 映画の中の時間は2022年だが、実際にはこんな風に地球環境は悪化しなかったし、子供の頃は圧倒的だと思われた最後の風景動画も、今の目から見るとありふれた環境ビデオほどの美しさもない。
 それでもこの映画の描いている「未来」は、間違いなく我々世代の原風景として世界観の一部を形作っている。

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