2018年10月25日木曜日

『ダーク・シティ』-迷宮のような夜の街の手触り

 異星人侵略物のSFなのだが、それで要請される超能力バトルやサスペンスなどには大した感銘はない。それよりもこの映画の価値は、ひたすら、題名通り暗い街並のもつ湿った空気感を描いたことによる。その空気感の中で、生き物のように伸びたり絡み合ったりするビルが林立する街並を描き出したことによる。
 サスペンスに価値がないとはいえ、ビルが変形しながら迫ってきて、隣のビルに衝突する際に挟まれてしまう恐怖は確かにサスペンスフルではあったが、それは逃走劇のサスペンスというより、不条理な悪夢を観ているような感覚だった。
 同じ時間が繰り返されることや作られた街が島のように宇宙に浮かんでいるビジュアルなどは、確かに『ビューティフル・ドリーマー』にそっくりだが、あの映画のようなディストピアと表裏一体のパラダイス=ユートピア感はなく、ただ永遠に朝が来ない街の閉塞感が描かれる。
 それがあればこそ、最後にそこから出て明るい海辺が開けるシーンの開放感は強烈だ。たぶんそのシーンだけを切り取って観ても、まるで観光CMのような凡庸な映画の一場面に過ぎないのだろうが。
 そしてそこで、暗い街で夫婦であった二人が、女性の方だけが記憶を失った状態で出会う。ハッピーエンドには違いないものの、その失われた記憶の分だけ感ずる喪失感が切ないエンディングだった。
 決して手放しで面白いとは言いかねるが、奇妙な手触りが印象的な映画ではある。

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