2019年9月11日水曜日

『ポノック短編劇場 ちいさな英雄-カニとタマゴと透明人間-』-山下明彦作品のみ

 『メアリと魔法の花』を観たのがちょうど1年くらい前になる。そのスタジオ・ポノックの第2作がこれ。15分前後の短編3編の併映で、1編目が『メアリ』の米林宏昌作品。
 先日の細田守と同じく、駄目であることを確認するために観ているような心構えになっているが、結果として予想を外していない。
 1話目の米林宏昌も2話目の百瀬義行も、優秀なアニメーターであり、演出も手慣れた表現にはなるのだが、いかんせん物語の浅さがむごたらしいほど。なぜ本人に脚本を書かせる? そこまでお話はどうでもいいから、アニメでさえあればいいとの企画なのか?
 そうすると演出も、それが目指す情感がどこにあるのかもわからず、心を動かすようなことにはならない。1話で言えば子供たちの健気さや父親の力強さが、まったく型どおりに描かれるが、それは物語が型どおりにしか進行しないということでもある。
 アニメ的には、蟹に対する山女魚(?)の大きさと、さらに上空(水面上)から降臨する鷺のスケール感が圧倒的だが、まああれも現実的なスケール感としては不自然で、なぜいっそ架空の世界でないのかが疑問。
 蟹を擬人化して描くのも、他の生物が擬人化されないのはお約束として受け入れるとして、途中に別の蟹が数匹、擬人化されない蟹のまま描かれるのはまったく意味不明で、何事かと思った。
 2話目の卵アレルギーの少年の話も、生活に不便を抱えながらも生きていく健気さが描かれているんだろうなと思って見ていると、最後に手違いで食べてしまった卵入りアイスで危険な状態になるところが物語的なクライマックスで、だからといって結局大丈夫だったというだけの、物語的に何事も起こらない、見事に「なにもない」作品だった。
 おそらく扱いが最も地味な3話目の『透明人間』だけは、充分観るに値する作品だった。画面の隅々まで、新しいことをやろうという気概に満ちている。1,2話の、手慣れた場面を描くだけのアニメーションとはまるで違う。
 山下明彦というアニメーターが関わってきた作品リストには、錚々たるジブリ作品もあるが、テレビの方でも特筆すべき作品があるとも思えず、監督としてはほとんど初作品なのだった。いるところにはいるのだ。人材が。とはいえ、このまま脚本を書いて長編を期待していいのかというとそれはまたどうだろう、という感じではある。

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