2019年9月28日土曜日

『ボーン・レガシー』-すごい創作物

 『ボーン』シリーズではあるんだろうが、どういう位置づけなのかは知らずに観始めて、主演がマット・デイモンではなくなったが、それはジェームズ・ボンドなんかと同じく、役者が変わってもジェイソン・ボーンなのかと思いつつ観続け、観終わって調べてみると別人なのだった。しかも時間軸的に前作に被っているのだった。
 それにしても作戦名とか組織名とかが把握されていないから、誰が何の思惑で動いているのかわからず、そこらあたりもよく考えられていそうな感触ではあるが、鑑賞対象にならない。
 それでも恐ろしく良く出来ていることはありありと感ずる。これで前3作の二人の監督のいずれでもない別の監督作だというのだから、相変わらず米国映画の層の厚さよ。画面のいちいちが緊密な完成度で、役者の演技からカメラワークから編集のテンポから、弛緩したところがまるでない。
 こういうのに馴染んでいると『牯嶺街少年殺人事件』のすごさがわからないのだ。別な基準で判断しなくてはならないのだろうに。
 そして物語の大枠がわからないうえでどこを楽しむかといえば、危機回避のサスペンスだ。巨大な権力が主人公を抹殺しようとしている。それに抗って逃げ延び、時に戦う。
 最初の無人機の爆撃に対抗するシークエンス、ヒロインを殺害しに来た数名の工作員との邸宅を舞台とした戦い、ラストの街中でのカーチェイスを含む、主人公と同等の能力を持っていると思われる工作員との戦いなど、『ボーン』シリーズに共通する、驚異的な判断力と身体能力で、ほとんど絶望的と思える状況から脱出するサスペンスとカタルシスという物語要素を、本作でもいかんなく現前させている。
 ここがすごいところなのだ。監督が替わったというのに。もっとも今回の監督は前作までの脚本には関わっていた人物ではあるので、そのレベルが維持できているということもあるのかもしれないが。
 何にせよ、すごい創作物を観た感動がある。

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