2021年2月20日土曜日

『ザ・クレイジーズ 細菌兵器の恐怖』-奇妙なリアルさ

  中学生の時に『ゾンビ』を観て以来のロメロ信者だが、これはレンタルされていたことがなく、観たいと願い続けて数十年、気がつくとアマゾン・ビデオに並んでいたのだった。

 軍の開発中のウイルスが、飛行機の墜落によって田舎町に拡散されてしまう。人を狂気に追いやるウイルスだというから、人から人へは感染しないものの、『28日後』が、死者の蘇りではないものの、広い括りでゾンビ映画とされていることを考えれば、これもゾンビ物の亜種ではある。本作の次が『ゾンビ Dawn of the Dead』だ。

 2010年のリメイクは観ている。悪くない映画だったが、あれも『Dawn of the Dead』のザック・スナイダーリメイクくらいに面白かったのだろうかと思っていたら、結論としてはまさしくそういう感じだった。

 ザック・スナイダーは確かに悪くなかった。だがロメロの人間描写は感じなかった。

 『クレイジーズ』もそうだった。

 確かに低予算映画らしさは全面に出てる。ウイルス感染地域を核で殲滅してしまおうと話し合われている時に挿入される爆撃機の映像があまりに借り物感満載なのは笑える。銃撃戦のシーンも、同人映画的手作り感が満載。

 だが、人物の描写が妙にリアルなのだ。とりわけ、ウイルス開発者が対策のために実験を繰り返す実験室で、助手の女性に「結婚しようか。冗談だよ」というシーンには妙に心を動かされた。二人ともそれなりの年齢で、かつ独り身という哀感が緊急事態の切迫感で浮き彫りになるところに感心した。

 一緒に観ていた娘が、対策本部での会話の場面が多すぎて飽きると言っていたが、こういうところで交わされる会話に表れる「現場」感がリアルなのだ。

 この、上手くいかない現場のバタバタ感やら、軍と住民の間で起こる戦闘やらをこそ映画は描こうとしているようにみえる。つまり感染者と軍から逃げる恐怖やサスペンスよりも、きれいな敵味方図式に分かれていないところや軍の作戦が冷徹に遂行されていないところこそが、この映画の面白さなのだ。

 上の会話の二人も、博士が対応策となる重要な発見をしたらしいのに、助手の女性がそれが何かを理解できずにいるうちに博士が研究室をとびだして、そのまま感染者に巻き込まれて結局感染してしまう、という展開の絶望感と悲しさはうまかった。

 怖いのは結局人間、というオチ自体はありふれているようにも思えるが、それでロメロ映画が面白いのは間違いない。

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